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「今日、(さこ)ちゃんと話しちゃった」 清宮はグラスのふちに口をつけたまま、頬を紅潮させている。 それがまだグラスの半分も減っていないアルコールのせいなのか、興奮によるものなのかは定かではない。 「へぇー、よかったじゃん」 粟島は、いつも通りの適当な間と相槌を差し込んで、彼の浮き沈みを見守る。 「休憩スペースで一緒んなってさ。ちょっとだけ話せた。仕事頑張ってねって言ったら、ありがとうございますって、笑ってくれたんだー」 皿から取った枝豆がさやだけになっていることに気付き、粟島は空き皿めがけて指で弾いた。 これも清宮のせいに違いなかったが、今の彼に文句をつけたところで、どうせうわの空だろう。 「すっごい可愛い。やーもー全然いけるわー、どうしよう」 清宮の目にはもう、迫の残像以外のものは映っていないらしい。手のひらで口元を覆いながら、余韻を舌の上で味わうように発した。 粟島はさやのひとつに指を押し当て、中に枝豆の感触があることを確かめてからつまみ上げた。 「いけるって、やれるってこと?」 「うーん、いや……掘らせてくださいって言われたら、さすがにちょっと無理かもだけど……」 「はは」 清宮らしいありきたりな発言に、さきほど弾いた枝豆のような、からっぽな笑いが出た。 あてつけのようにさやを圧迫すると、豆が勢いよく飛び出して、テーブルに落ちる。 しかし清宮の視線は自身の指先に落ちたままで、飛んだ枝豆はおろか、粟島を捉えることもなかった。 「やりたいとか、やりたくないとかじゃなくて、単純にもっと仲良くなりたい。迫ちゃんのこと知りたいんだよね」 「それ本気のやつじゃん」 「やっぱそうかなぁ〜……」 彼は額を押さえた。吐き出される、苦悩混じりの息からは、今にもぽわんと湯気がたちそうだ。 何度繰り返したかわからないこのやりとりに、粟島は彼とだいぶ温度差のあるため息を吐き出した。 いいかげん、飽き飽きした。
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