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新谷はさ、野心家っぽいよな。そつなくやってるけど、本性はなに考えてんのかわからないっていうか——
いつかの宴席での、清宮の発言だ。
粟島には清宮や新谷を含め、同期入社が6人いるが、新谷はそのなかでも頭ひとつ抜きん出ていた。
いかにも体育会系らしい、目上の人間が好ましく思う礼儀正しさを備えており、その謙虚さや吸収力の高さ、たまにスパイス程度にちらつかせる貪欲さで、新入社員の中ではいちばん期待されていたらしい。
それぞれ違うセクションに配属されたため具体的にはわからないが、新卒という域を脱した後も、期待値は上がる一方だ。
フォロー上手で、後輩からも慕われていると聞いた。
そんな新谷の評判が流れてくるたび、決まって皮肉るのが清宮だった。
ああいう奴はコネをつくるだけつくってさっさと転職するか、起業するに決まってるだとか、なにかやばい副業をやっていそうだとか、そんな内容だ。
だが、入社から丸4年が経つ今も、新谷は辞めていない。
昨年、偶然が重なり、彼の住むアパートに粟島が引っ越してきて、いわゆるお隣さんになってからも——清宮が睨む「やばい本性」とやらが明らかになることもなかった。
彼の部屋からは騒音もしなければ、誰かを連れ込んでいる気配もないのだ。
ゴミはきちんと分別され、自室の前の共有スペースを私物で占拠することもない、極めて模範的な住人。
ただ、そのそつのなさ、潔癖さが、未だに仲良くなりきれない要因のひとつであることには間違いない。
だから、粟島にとって新谷は、今も昔も「穏やかで賢い、完璧な同期」という印象そのままだった。
それにたった今、おいしそうなお尻をしているという、軽薄な高評価だけが積み上がった。
粟島は煩悩をため息とともに落とし、自室のドアノブを掴んだ。
大いに欲求不満だが、一発抜いている時間はもう残されていなかった。
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