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同性を好きになったかもしれない——清宮が相談をしてきたのは、今から半年前のことだ。
相手は、昨年入社してきたばかりの迫。すえたにおいやむさ苦しさといった要素がすべて濾過されたような、澄んだ雰囲気をもつ青年だ。
小柄で肌が白く、いわゆる中性的な見た目で、ストレートである清宮がほとんど一目惚れだったというのも納得できる。
「だって迫ちゃん可愛すぎない? 粟島から見てどう?」
「んー、俺のタイプじゃない」
正直、粟島には迫の可愛さというものがさっぱりわからなかった。透明感があるせいか、黒目ばかりが目立ち、生のしらすみたいだなとも思う。
見つめられたらぞっとする要素が、どこかに潜んでいる気がしてならない。
「どんだけ理想高いんだよー」
「高くないよべつに。タイプじゃないってだけで」
粟島は、言いながら清宮の喉仏が動くのを視線でなぞった。
——清宮が真っ先にこちらに相談してきたのは、粟島自身がバイだと公言しているせいだろう。
それまでさほど親しくしていたわけではないのに、彼はそのなんとも生ぬるい相談を理由に、あっというまに距離を詰めてきた。今では週に3回は会う仲だ。
粟島は、迫の話をするたびに律儀にかしこまる清宮の、筋張った首元を恨めしく見つめた。
「清宮はさ、わかりやすく可愛いのが好きなんだねー」
「え?」
「チワワみたいな? 小さい、目がでかい、可愛い、みたいな」
「そうかなぁ。自分ではよくわからないけど」
あらゆる面で鈍感だからこそ、わかりやすいのがいいのだろう。たとえ好いた相手が女性であっても、清宮なら同じようなタイプを選ぶに決まっている。可愛くて小さくて、少し勝気そうな——
粟島は、タブレットのメニュー画面を指で滑らせながら、食欲のそそられない色味に加工されたエイヒレの画像を眺めた。
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