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01
粟島は、プラスチック容器ばかりで膨らみ切ったゴミ袋を手にしながら、目の前の木から新芽が出て、淡い緑で彩られていることにふと気づいた。
霧雨がどこからか噴き出すようにして降り、あたり一面を乳白色で包んでいる。
遠くに見える五分咲きのソメイヨシノは、曇天とマンションの壁に溶け込み、その輪郭を曖昧にしていた。
最後に自ら春という季節を迎えたのは、もう4年前——ちょうど社会人になったころだ。
入社5年目になり、変化のない環境に身を置いているせいか、以来、春はいつも一方的に、我が身に食い込んでくるようになった。
冬と夏の隙間に埋もれぬよう、花を咲かせ、陽光を放ち、緑の絨毯を敷く。
その主張の強さに反して、春からもたらされるあらゆるものすべては薄くてぬるい。そこが好きだと、粟島は思う。
鮮やかすぎない、まろやかな色味。
人肌のような風。
瞼をとろかす、柔らかい光。
それぐらいが、自分にはお似合いだ。
新緑に気を取られていたせいか、新谷の姿を捉えたのは、すでに階段を下り始めてからだった。
こちらの足音と手に持つゴミ袋の擦れる音は、すでに彼に届いてしまっているだろう。
ステップのリズムが不自然に乱れぬよう注意して近づくと、新谷は想定通り、見計らったようなタイミングで振り返った。
「おはよ」
ジャケットとネクタイはまだ身につけていないが、彼はすでにスーツ姿である。
大きくはないが、明瞭な声だ。
「おはよー」
それに対して、粟島の挨拶——すなわち本日の第一声はだいぶかすれていた。
加えて、まだ自分が上下スウェット姿であること、それに、ラベルをろくに剥がさぬままゴミ袋に突っ込んだボトル類に、気まずさを覚える。
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