さらに扉の向こうへ

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さらに扉の向こうへ

 聖堂の扉の向こうはまるで外にいるかのような、まぶしい日差しが降り注ぐ木立の中だった。そして、プレーナ教徒の娘たちが噴水を囲み、祈りを捧げている姿を見た。噴水の中央の水柱が緑色に輝き、娘たちがプレーナと呼ぶ存在の姿に変わっていた。  しかし、ヒラクにはどうしても、それがプレーナとは思えない。  娘たちが祈るたび、その姿は現れて、そのため娘たちはまた祈る。その光景はヒラクにはなぜか絶望的なものに思える。  ヒラクはその場を後にし、木立の中を通り抜け、自分が入ってきた聖堂の扉に戻ろうとしていた。  途中、何人もプレーナ教徒の女たちとすれちがった。  最初に噴水の周りにいた娘たちの姿もあった。彼女たちはプレーナへの祈りと同化を繰り返し、聖地で祈りを捧げ続けるのだ。  ヒラクはすれちがう娘たちの後ろ姿を振り返りながら、どうしようもなくやるせない気持ちになった。 (自分もあの女たちと同じじゃないのか?)  元の場所へつながっていると思われるアーチ型の扉の前に立ったとき、ヒラクはふと思った。  この扉の向こうに待つのは、時間の止まったような水晶の館での静かな祈りの日々だ。同じことを繰り返すだけの毎日に、一体何の意味があるのか。自分はそこに何の希望を抱くのか。ヒラクは、母と再会してから初めてこの場所を離れたいと思った。  それでもまだ自分をここにひきとめる何かがある。それは母の存在か、それとも中庭の少女フミカの存在か……。  ヒラクはもう一度フミカに会いたいと思った。  自分の心をかき乱すあの少女のことが気になってしかたなかった。  なぜそれほど彼女に執着するのか、ヒラクにはわからなかった。  ユピのことを思い出した以上、一刻も早くここを抜け出してユピに会いたい。そう思うのに、心に住み着くフミカが、ヒラクのことを引き止める。 「フミカのことが好きなのかな……。でもだからってユピのことを嫌いになったわけじゃないんだ……」  迷いながら、ヒラクは扉に差し固めてあるかんぬきを引き抜いた。 「あなた、なんてことするの!」  背後から声がして、ヒラクは驚いて振り返った。  そこに立っていたのはプレーナ教徒と思われる娘だ。栗色の髪は緑に変化しつつあるが、瞳は茶色のままである。その目が非難がましくヒラクを見ている。 「扉を開放する気? その扉からこの聖地に入り込みたい人々がどれだけいると思っているの?」  ヒラクはきょとんとした顔で女を見た。 「ここはプレーナの娘しか存在できない聖地よ。選ばれた者しか入れないの」  ヒラクは、この娘も母とまるで同じことを言うと思った。 「とにかく外の人間はここに入れちゃだめよ。わかった?」  女はヒラクがはずした横木を扉の金具に差し込んで戻そうとした。 「ちょっと待って」  ヒラクは女の手を止めた。 「おれはこの向こうから来たんだ。もとの場所に戻るだけだ」 「あなた、外から来たの?」  女は怪訝顔でヒラクを上から下までじろじろと見る。 「だってあなたもプレーナの娘でしょう? 外の世界から来たって新参者って意味? それなら物を知らなくて当然ね。いい? この向こうは穢れているの。ここから出ちゃだめよ。外は危険だわ」  ヒラクには女の言っていることがさっぱりわからなかった。 「外って、ここが外でしょう?」  ヒラクの母は確かにそう言った。自分たちより下等な者が水晶の館の聖堂に向けて祈りを捧げていると。それはここにいるプレーナの娘たちのことだったのだろうか。   ヒラクはそれを母に確かめたかった。 「とにかくおれはここを出る。ひきとめても無駄だ」  ヒラクは女の手から奪ったかんぬきをその場に放り捨てると、横木を差し通す左右の金具を両手でつかんで扉を開けた。  向こうに出ると、扉がすぐに閉められた。  先ほどの娘があわてて閉めたのだろう。  固く閉ざされた扉は二度と開かないようだった。  そしてその扉の向こうは、さらに違う場所だった。  そこは聖堂ではなかった。
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