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「昔ここで死んだ漁師もな、本当に女房に惚れていたんだよ。だから、一人で生きることができなかった。恋女房だったんだ」
「そうですか。分かります」
「遺体があがらなかったから、二人で黄泉の国で仲良く暮らしているんだろうって村人達が言い出した。そう思ってあげることが二人への弔いだと思って言い伝えたんだろうな」
「そうでしょうか?」
翔の涙の滲む瞳を見つめて漁師は微笑んだ。
「愛してやったんだろう? その娘さんを」
「ええ、力の限り愛した」
翔は再び嗚咽した。明るい声で漁師は翔に言った。
「生きろ、愛してやれ、今度は思い出の中のその彼女を力の限り愛してやれ。忘れないこと。それが愛だ」
堪えきれず翔は声をあげて泣いた。
「美咲! 愛してる、愛してるよ。忘れない!忘れないよ。生きる、生き抜く! 俺は、ここで生きるよ。美咲、待っていてくれ!」
空と海の青が溶け合う水平線の向こうには、太陽が沈もうとしていた。翔は美咲の声を聞いていた。
「カケルぅ!生きて!」
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