『愛と忘却』

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「私と貴方は前世では夫婦だったのよ。貴方が先に生まれ変わった。私は、貴方よりも20年も遅く生まれる予定だったの。だから、出会えても愛し合えないと思った。私は、前世で貴方と出会った18歳の姿にしてもらって貴方に出会おうとしたの。その代わり、もう、二度と生まれ変わらないという約束をさせられたのよ」 「美咲! なら、俺も黄泉の国へ行く。美咲と黄泉の国に永遠に留まる!」 「翔、生きて! お願いよ、生きて。貴方にこんな悲しみをもたらした私を許して。でも、生きて、お願いよ」    美咲の姿は、徐々に消えていった。翔の美咲を呼ぶ絶叫は積丹ブルーを抱く澄んだ青空に吸い込まれていった。  突っ伏して嗚咽する翔の耳に、漁師の声が響いた。 「兄ちゃん、帰るぞ」 「ああ、貴方でしたか」 「どうだい、気が済んだか?」 「美咲に会ったんです」 「君は眠っていたようだぞ」 「え?」  漁師はにこっとすると漁船に翔を招き入れた。翔は大人しくそれに従った。翔の耳朶に残る美咲の「生きて」という言葉が翔の胸を重くしていた。美咲の後を追いたかった。 「なあ、兄ちゃん、よほど惚れていたんだな、その娘さんに」 「ええ」
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