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余市の町は北海道の神威岬の付け根にある。北海道の地図を見ると、菱形の地形の中央部に余分な突起がついているかのように見えるのが、その神威岬である。チャレンカの小道は右へ左へカーブを描きながら、岬へと繋がっている。岬の先端に立つと、積丹ブルーと呼ばれる海の青さに目を奪われる。夕暮れ時には薄紫に染まる日本海の水平線が、得も言われぬ神々しさで目に焼きつくのだ。
25歳を迎えたばかりの永山翔が余市を訪れたのは、街行く人々が皆肩に首を埋めて歩く、まだ春浅い頃だった。
東京で一人暮らしをする永山翔には、大学の映画クラブで知り合い、愛を育んできた恋人がいた。しかし、その恋人佐川美咲は、不慮の事故で昨年亡くなったばかりだった。
翔の脳裏には常に美咲の姿が思い浮かんでいた。美咲はいつもはにかんだ笑顔を翔に向けている。若い二人は公園のベンチからいつまでもいつまでも立ち上がらずに、星が瞬き、月が傾くのにも気がつかない。恋人たちには、月はお互いの弧を描く瞳、星はお互いの見つめ合う瞳の中にあった。会話が脳内に再生される。
「翔、どうして私なんか好きになったの?」
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