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「翔、私の実家の札幌から車で2時間ほど行ったところに、余市っていうウィスキーで有名な町があるの。そこの神威岬のどこかに地獄穴があるっていう言い伝えがあるのよ」
「地獄穴?」
「ええ、黄泉の国と繋がっているんだって」
「黄泉の国って、死者が暮らすという町?」
「そうよ」
「ええ、私も死んだら黄泉の国で暮らすから、翔が来るの待っている」
「美咲、俺達を分かつものは何もないよ」
「そうだね!カケルぅ、好きだよ……」
「美咲、俺も!」
翔は、思い出の中の美咲を胸に抱きしめた。積丹ブルーの海へ向かって声を限りに叫ぶ。
「美咲!! 必ず、お前を迎えに行くからな! 待っていろ!!」
翔は、チャレンカの道を通り、神威岬を後にした。
余市は、リンゴで有名な町である。5月になればリンゴの木に白い花を咲かせる。リンゴ園に足を踏み入れると微かなリンゴの花の香りに誘われる。だが、まだ春浅い余市の町には、海風が運ぶ潮の香りがしているだけだった。
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