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翔は街を歩き、ふと目にした小さな喫茶店のドアを開けた。ドアベルが澄んだ高音を立てる。カウンターの奥で白髪の上品な男性が微笑んで、カウンターを目で差して言った。
「いらっしゃいませ。こちらにおかけください」
「ありがとうございます」
「地元の方ですか?」
「いえ、東京から来ました」
「東京から?」
「ええ、神威岬を見に来たんです。美しいところだった」
「そうでしょう? 積丹ブルーに癒されるんです」
「本当ですね」
翔は、喫茶店に行くといつも美咲が頼んでいたキリマンジャロを注文した。店主がにっこりしてキリマンジャロの豆を曳き始める。店内に、柑橘系の華やかな香りが立ちあがった。翔は、また美咲の思い出に囚われる。
「カケルぅ、モカも美味しいよ。チョコみたいな強い香りがあってコクもあるの」
「俺は、よくわからないから、美咲と一緒でいいんだよ」
「そう? カケルはいつも私と一緒でいいって言うんだね。料理も一緒でいいって」
「美咲をたくさん知りたいんだよ」
「カケルぅ。可愛い!」
「可愛いってなに? 俺、男だよ? 可愛いのは美咲だよ」
「フッフ」
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