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2.出会い
父が亡くなったのは高校3年の3月初旬。寛太に出会ったのは高校3年の3月下旬だった。
出会ったきっかけは父の死だった。
父は地位も名誉も学歴もなかったけれど、愛嬌と度胸と器用さがあり、人を惹きつける魅力があった。
父以外に身寄りのない私は、お葬式の上げ方すら分からなかったけれど、父の死を聞いて駆けつけてくれた近所の人達、父の会社の人達、友人たちが色々と手配をしてくれた。
その中に、寛太のお父さんである草間さんもいた。
草間さんは、優し気で、涼し気な紳士で、スーツも艶々と光っているように見えた。どこかの会社の経営者だと言われて、驚くより納得してしまったのは、その見た目と、風格のせいだろう。
葬儀会社、保険会社、事故の取材に来たマスコミなど、対外的な対応はほとんど請け負ってくれた。
父の人付き合いの良さに、このときほど感謝したことはない。
お葬式を終えた2日後、私はやっと、父のいないこれからの生活について考えていた。
第一希望の大学に合格し、4月からキャンパスライフを満喫する予定だったけれど、突然、父子家庭から子家庭になった今、学費どころか賃貸である住処の家賃さえ払っていく術がなかった。
父の生命保険と貯金は少しあったけれど、4年間の大学生活の資金には足りそうもなかったし、たった4年で父が遺してくれたお金を消費してしまうのは嫌だった。
「働くか。」
そう決心したタイミングで、草間さんが私を訪ねてきた。
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