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「葬儀の時はきちんとご挨拶できませんでした。お父さんには大変お世話になりました。」
と丁寧に私に頭を下げてくれた。
「園田さんは、いい男でした。」
父より数段いい男に見える草間さんが、父の事をそう評した。
「そうですか。」
「私は、お父さんに何度も助けられたんですよ。」
「そうだったんですか。」
逆では?お金借りたりしてそう・・・と思いながら聞いていると
「人に惚れこむとは、こういう気持ちだと思います。」
とキラキラした目で言われて、私はやや体を後ろに逸らせた。草間さんがハッとして
「イチャイチャしたいとかではありませんよ。」
と説明した。私がぎこちなく頷くと、草間さんは優しく微笑んだ。
「まだお若いから分からないかな。恋とか愛とかじゃなく、人は人に惚れることがあるんですよ。」
草間さんが、父の遺影に視線を移す。途端に、苦しそうで、寂しそうな表情になり、父を悼んでいることがひしひしと伝わってきた。
「会いたいな。」
そう呟いた草間さんは、風格ある社長ではなく、心細そうな少年に見えた。
私はそれで、この人が父に惚れこんでいたというのが本当だと分かった。父はそういう人だった。どんな人にも、上でも下でもなく、人として接した。ニッと笑って、無邪気に質問して、無邪気に語った。
愛嬌と飾らない言葉で、相手の心の鎧をはがすような人だった。
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