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書き出すとなかなか文字数を満たせず、夜に自宅で苦戦していたところ、勝手知ったる様子でウチに来た寛太が「読ませろ。」と読みだして文句をつけているのである。
呆れたように私を見る寛太に
「だって、書くことあまりないから、なんらか文字で埋めないと。」
と言うと
「いっぱいあるだろ。格司さんのこととか。」
と、私の父の名前を出した。
「確かに。父のこと書いたら文字数は稼げるかもしれない。」
顎に手を当てて言うと、寛太が
「文字数稼げるって提案じゃないだけど。真尋の生い立ちを『書くことない』なんて、つまんないもんみたいに言うなっていう注意だったんだけど。」
と、また呆れ顔をした。
私はその呆れ顔は見ずに、視線を窓の外に移して父のことを考えた。やはり、文字数が稼げそうだという結論に達する。父はわりとエピソードを残してくれたほうだと思う。その最期だけでも、書き始めればそれなりのスペースが埋まりそうだと、私は静かに頷いた。
「真尋?聞いてる?」
寛太が私の顔を覗き込む。
「ううん。」
「聞いとけよ。」
「父の事考えてた。」
「あ、そっか。ごめん。」
急にしんみりとした顔になった寛太を見つめて、私は微笑んだ。
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