1.生い立ち

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 書き出すとなかなか文字数を満たせず、夜に自宅で苦戦していたところ、勝手知ったる様子でウチに来た寛太が「読ませろ。」と読みだして文句をつけているのである。  呆れたように私を見る寛太に 「だって、書くことあまりないから、なんらか文字で埋めないと。」 と言うと 「いっぱいあるだろ。格司(かくじ)さんのこととか。」 と、私の父の名前を出した。 「確かに。父のこと書いたら文字数は稼げるかもしれない。」  顎に手を当てて言うと、寛太が 「文字数稼げるって提案じゃないだけど。真尋(まひろ)の生い立ちを『書くことない』なんて、つまんないもんみたいに言うなっていう注意だったんだけど。」 と、また呆れ顔をした。  私はその呆れ顔は見ずに、視線を窓の外に移して父のことを考えた。やはり、文字数が稼げそうだという結論に達する。父はわりとエピソードを残してくれたほうだと思う。その最期だけでも、書き始めればそれなりのスペースが埋まりそうだと、私は静かに頷いた。 「真尋?聞いてる?」  寛太が私の顔を覗き込む。 「ううん。」 「聞いとけよ。」 「父の事考えてた。」 「あ、そっか。ごめん。」  急にしんみりとした顔になった寛太を見つめて、私は微笑んだ。
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