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「おじさんがピースしたの。」
「へ?」
「手も血で真っ赤だったけど、笑いながらピースして『大丈夫だ。』って言った。」
想像が、突然、きちんとした映像になって目の前に浮かんだ。
それはあまりに父らしい画で、しっくりきすぎていて、その場にいなかった私にも鮮明にその場面が見えるようだった。
父はいつだって、ニッと笑っていた。いつだって『大丈夫だ』と言っていた。口が大きく、すきっ歯で、男前ではないけれど、愛嬌のある笑顔だった。
カッコいいセリフも、含蓄のある言葉も言えない人だったけれど、『大丈夫だ』とばかり言っていた。疲れていても、痛くても、辛くても、『大丈夫だ』と言って笑っていた。根拠も後ろ盾もない言葉なのに、何故だか、その言葉が一番、私を安心させてくれた。
目の周りが沸騰したかのように熱くなり、止めるどころか、気づく間もなく、私の目から涙が零れた。
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