愛し子

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コンコンッ  「ザライドとアンジュです」  「やっと来たね」  応接間に入ると、お父様とお母様は既に来ており、ソファーに並んで座っていた。  私たちはその向かい側に座った。  間にあるテーブルには、温かそうな紅茶とケーキスタンドが準備してあった。  美味しそう…。  私がじっとそれを見ていたことが分かったのか、お父様はデレっと相好を崩し、兄様に目線でなにか合図をしていた。  兄様は神妙な、けれど少し不安そうな顔をしたが、何か決意した様子でケーキスタンドから一口サイズのガトーショコラケーキを手に取った。  その様子をお父様は固唾をのんで、一方で温かく見守っているお母様はのんびり紅茶を飲んでいる。    何かするのかな?  私も様子を見ていると、兄様がそのケーキを私の口元にもってきた。  えっ、これってあれですか?  あ~んって、食べさせてもらうやつですか??  前世はもちろんこんなシチュエーション一度もなかった。しかも、相手はまだ幼いとはいえ、かなり将来有望な美少年。  双子の兄だからと言っても恥ずかしい。    食べないとダメか…?  そっと様子を窺うと、不安と期待が混ざった表情をしていて…、正直言ってすっごくかわいい。  え?この子本当に兄様?  いつも頼りになる6歳児ならぬ6歳児の態度とのギャップが…!  その表情をずっと見ていたくなったが、いつまでもこのままではいけないので、私は観念して小さく口を開いてそれを食べた。  うっ、わ…。美味しい。すごく美味しい。  チョコはとても滑らかな舌触りで、甘過ぎず、苦過ぎず、丁度いいビターチョコレート。  スポンジはふんわり、しっとりとしていて、チョコによく合っている。  あまりの美味しさに頬を緩めてしまう。  後でこれ作ったシェフに感想を言いに行こう。  ついでに、レシピ教えてくれないかな?  ……。  あっ。  今はこんなことしてる場合じゃなかった。    私に食べさせることを成功させた兄様は、なぜかとても幸せそうな空気を出していて、お父様とお母様は良かったね、とでもいうような笑みを浮かべていた。  あれ絶対本来の目的忘れてるよね。  「あの…お父様、お母様、兄様?お話はいいのですか?」  「あら、そうだったわね。すっかり忘れてたわ」  「おお、そうだった。ザライドを見守るので忘れかけてたよ」  「…………」  あぁ、やっぱりか。  「よし。じゃあまずは「まず、妖精と精霊と遊んでいたっていうことについて話してくれるかしら?」…アリス、僕のセリフ取らないで…」  お父様はセリフ取られて苦笑いをしている。  どんまいww  「う~ん…。一緒に遊び始めたのは大体4歳頃からだったはずです。庭でかくれんぼしたり、花々を咲かせてもらったり…。色々していましたね」  「3回に1回はいたよね」  「なるほど…。そんなに頻繁にいたのか…。   なぁ、2人共。妖精や精霊は1人の時も近くに来たりしていたかい?」  「はい。私は屋敷内の図書室で読書をしている時や、勉強をしている時によく見ました」  「僕は、剣術や体術を練習している時と、同じく勉強をしている時に見ました」  「まぁ!2人共なの!!どんな風に見えてるのかしら?」  「小さくて子どもみたいな見た目で、」  「背中にそれぞれの属性の色の透けた羽がついています」  「「それで、属性の色の光でカラダが覆われていますね」」  兄様と交互に言うと、お父様は頭を抱えてしまった。    「あぁ、そうなのか…。確かにそうあったが…。いや、でも2人だなんて…そんな前例ないはず…。しかも、何故この子達なんだ…」  ブツブツと何やら呟いていたが、急に顔を上げ、お母様と目を合わせると、よしっ、と私達の方を向いた。
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