prologue

1/1
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ

prologue

 俺は湯井(ゆい)海翔(かいと)。現在はアルタイル星国連宇宙部輸送部隊に所属している。  前職は太陽系第三惑星地球某国某隊宇宙作戦群に所属していた元国家公務員だ。主に国際緊急援助活動の際の人員、物資の輸送を担当していた。以前は骨髄と末梢血幹細胞、臓器や角膜のドナー登録をしていたのだが、自分自身が軟部肉腫(サルコーマ)になったため、提供は出来なくなった。全身に転移があったためだ。  普通に寿命を迎えるのも勿体ない気がして献体登録をした。そして当時実証実験段階にあった最新の人体冷凍保存装置(クライオニクス)の被験者として人生を終えた。  終えたはずだった……のだが、目覚めさせられた。  普通、人体冷凍保存装置(クライオニクス)長期冷凍睡眠装置(コールドスリープ)と違って、亡くなった人を対象とする。うっかりミスかと思いきや、当時の実験担当者が狂科学者(マッドサイエンティスト)だったらしく、〇年後に解凍するよう計時機(タイマー)を設定していたそうだ。組織ぐるみの確信犯。  図らずも俺はタイムトラベルしたわけだが、未来では当時の希少がんが希少ではなくなっていて、普通に治療可能となっていた。献体のはずが、新型装置の被験者として感謝状を貰い、無償で治療してもらって退院した。  ただし、かなりの年月長期冷凍睡眠(コールドスリープ)していたせいで、戸籍が凍結されていた。  身元保証兼後見となったのは国連アルタイル星支部。国際連合ではなく、国際連盟でもなく、国際連邦という新しい名前になっていた。国連憲章を確認したところ、母国の敵国条項は外されていた。  一応、現在でも地球に故国は存在すると聞く。ただし、帰国にかなり費用が掛かることが判明。  ここ、アルタイル星は系外地球型惑星だ。太陽系の近傍にある星間雲(せいかんうん)Gクラウドの近くに位置するから、まだ近い方だと言われているけども。滞在星には英数字の長い正式名称があるのだが、面倒なのでここでは太陽にあたる恒星の名に準じてアルタイル星という愛称で呼んでいる。地球から違う星まで勝手に連れて来られたことには言いたいことがままあるが、残念ながら帰国費用までは出してもらえない。  一般市民として身分証明証と旅券(パスポート)を取得し、地球までの旅費を稼ぐため、取り敢えず俺は現地で就職した。  アルタイル星国連宇宙部、英名United Federation Office for Outer Space Affairs in Altairに。配属先は前職と同様、国際緊急援助隊、Altair Disaster Relief Team、通称ADRだ。多民族ならぬ多星民族な職場ではあるが、イヤーカフタイプの骨伝導式自動翻訳機が優れているので語学の面では困らない。  しかし正直なところ、語学以外の全てで困った。何せリアル浦島(ウラシマ)なもんで。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!