Ava Rivera

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Ava Rivera

 国連アルタイル星支部で俺の世話役につけられた補佐(セクレタリー)董 浩然(トウ・ハオラン)には仕事だけではなく、日常生活も含めて世話になっている。  ところで力自慢の多いうちのチームに、なぜか定期的に未婚の女子が送られてくる。この前、結婚が決まった女性職員を地上勤務へ異動させ、見送ったばかりなんだけどな。本部は何を考えてんだ。若い娘さんを危険の多い職場に配属させるんじゃない。お嬢さんの方も男所帯の組織になんて長居するもんじゃない。宇宙における輸送部隊なんて宇宙港を出発したらほぼ密室空間だからな? 万一の事故とかあっちゃならんが、何が起きても自己責任だぞ。男女同権となって久しい今日(こんにち)、前時代的だと批難されようと忠告を受けようと俺は言うべきことは言うぞ。実際に前時代の人間だからな。 「何でここに来たんだ。女子(おんなこ)どもは足手まといだ。とっとと結婚退職して辞めろ」  これまで様々な経歴の女性職員を預かってきたが、今度のAva Rivera(アヴァ・リベラ)という新人は特に若かった。小柄で頭一個分低い。下から睨みあげてくる気概だけは一人前のようだが。 「ハラスメントという言葉をご存じですか? 艦長Yui(キャプテン・ユイ)」 「知ってる。だから何だ? お前何して本部からこんなところに左遷されてんだ」  口許を結びながら、アヴァは人事異動の書面を突きつけてきた。確認すると、署名欄に、結婚して地上勤務に異動した前々任者の女性職員の名が記されてあった。 「あー、Zeynep Bayat (ゼイネプ・バヤット)か。あいつ元気だったか?」 「第一子出産後の職場復帰をされたばかりだそうですが、お元気そうでしたよ。バヤットさんが私をここに推薦してくれたんです。すごく面倒見の良い上司(ボス)がいるチームだからって!」 「そうかー。あいつ外ではそんな風に言ってくれてるんだ。何か照れるな。多分、その上司って俺のことだ」  アヴァは分かり易く、どこが?という表情で不満を表明した。  こう見えて俺には手のかかる妹がいたから割と面倒見は良い方だと思う。口煩いという方の意味でな。 「わたしはベガ星出身です。国連教育科学文化機関アルタイル星支部の特待生として、一昨年ユニバーシティ・カレッジ・アルタイルを卒業しました。奨学金を返済するまで国連アルタイル星支部で勤務する契約を交わしています」 「なるほど。で、前部署からの異動理由は?」 「前部署直属上司のセクハラです」 「ほー。そりゃ大変だったな。今日日(きょうび)、婦女子は何か不満があると『セクハラ』と言えば大抵の我儘は通るもんな。でもそれだけなら門外漢(もんがいかん)の国際緊急援助隊の輸送部隊なんて僻地に飛ばされるはずがない。理由は正確に言え。お前、何やらかした?」  アヴァは目を細めた。 「護身用電撃銃(スタンガン)で反撃しました。その上司に過剰防衛(オーバーキル)だと訴えられ、査問委員会に呼び出され、懲罰房(ちょうばつぼう)蟄居(ちっきょ)処分の判決が下されたところ、事情を知ったバヤットさんが国連女性権利団体アルタイル星支部を通して、僻地へ左遷という懲罰人事で手打ちとなるよう掛け合ってくれたんです!」  ここまで息継ぎ無しでアヴァは一気に言いきった。肩で息してる。 「……そーか、よく分かった」  俺はまたもやお荷物を押し付けられたようだ。見た目はちっちゃくて可愛いが中身は超狂暴な入職二年目の女子。手負いだから今現在雲丹(ウニ)の状態。もしくは河豚(ふぐ)。しかも首席卒業生とのこと。  やりづれーな、おい。コレ連れて仕事すんの? あーあ。  俺は思わず溜息を吐いた。 「うちは荷物運びが主な(メイン)業務だ。外骨格型装置(パワードスーツ)を着用してもお前じゃ戦力にならん。アヴァには艦内に残って機器の保守点検を担当してもらう。稀に女性被災者の看護や本部との連絡窓口もしてもらう。ちなみに専門は何だ?」 「SE(システムエンジニア)です」 「あっそ。じゃ、艦内のシステムも見てもらおうかな。古いから改造し甲斐があるぞ。着いて来い。乗組員(クルー)を紹介する」  渡り廊下を歩きながら、後ろをついてくるアヴァに俺は一応声を掛けた。 「うちの艦内では合意のない無理強いは許可していない。通常、組織内で被害が出た場合はまず十割異動希望が通ると聞く。ここに来たってことは未遂だってことなんだろうが……、よくやった。そういう(やから)に遭遇したら過剰攻撃(オーバーキル)して良い。俺が許可する」  まあ正直、だから女子はこういう職場から()よ辞めろとは思っているが。 「はい」  アヴァの返事を聞いてから、俺は乗組員を集めた会議室(ミーティングルーム)の扉を開けた。
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