帰り道

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   その日の帰り道。  わたしは、一也くんの前を歩いた。  そして、人目の少ない街中の道に差し掛かった時、 「あっ!」  わたしは、一也くんの前で派手に転んだ。  段差もなく、坂道でもない、何の変哲もない平坦な道で。  それも突然に。  言うな。  分かっている。  余りに見え透いていることぐらい。  だけど、どうしても繋ぎたかったんだよ!  手!  自分が、こんな事をする人間だとは、思ってもみなかった。  恋は盲目、とはよく言ったもんだ。 「遥ちゃん!」  想像通り、一也くんが駆け寄ってきてくれる。 「痛てててて」  わたしは、敢えて起き上がらずに、痛くもない足をさする。 「大丈夫?」  一也くんは心配そうに言うと、 「掴まって」  と、手を差し伸べてくれた。 「ありがと」  わたしは礼を言うと、その手を取って起こしてもらった。    繋いだ一也くんの手は、しっとりと温かかった。  わたしは、一也くんに手を繋いでもらいながら、二人が別れる交差点までの道のりを歩いた。  嬉しかった。  圧倒的に。  ほんの僅かな罪悪感はあるけれど、それでも、一也くんの手の温もりと、その優しさは、 想像以上に嬉しかった。  わたしは、思わず笑顔がほころびそうになるのを堪えながら、残りの道のりを幸せな気持ちに包まれて歩いた。
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