1.医薬道源 体にいいものはうまいのだ

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1.医薬道源 体にいいものはうまいのだ

皇帝への献上物を管理する部署。 ここは、うまみが多い。 なにせ献上されたものを管理するのなんてザルもいいところで、官吏たちは当たり前のように懐に入れる。これも俸給の一つと習慣づいているのだ。 「それがどうしたってんだよ」 濫夕が晴雪宮に来て紅星に面会を求めた。 これはあまりよくない兆し。 濫夕は皇帝鶺鴒の従者であり、非公式な使者なのだ。 「よくない官吏は牢にぶちこめよ!」 ふっと濫夕が笑みを浮かべる。 そばで茶を冷やしていた侍女が手を滑らせ氷が床に滑った。 氷は夏場には貴重品。それを落とすなどあり得ない失態だが、濫夕の美貌のせいなんだ。 「あー、濫夕は夏でも涼しそうだねえ。何か秘けつでもあるのかな」 「紅星妃は山奥のご出身ですから暑さには慣れてないのでしょうね」 「悪かったね!自慢にもならないけど、あたしの里は万年雪がある山が近いから氷なんて取り放題だったよ!腹は膨れないから、金持ち相手に商売してたけど!」 侍女が紅星の前によく冷えた茶を置いた。 これは薬湯で、飲みやすくするために冷やしてもらってるのだが、値段を聞いてありがたみも吹っ飛んだ。 後宮ってところはむだが多すぎ! 「その氷も献上されたものでしょう」 「鶺鴒が、熱を出したときにくれたのを料理人が氷室で管理してくれてんだよ」 「ここの料理人は優秀ですからね」 「あれ?知り合い?」 「晴雪宮の人員配置は私と汎娘で決めましたから」 「へーっ!顔が広いんだね。今度、お礼が言いたいんだ。あたしが辛いものが食べたいって言ったら、すごくうまいものを作ってくれたんだ」 「熱帯地方の香辛料を皇帝がお出しになられていました」 「分かった!分かったよ、鶺鴒には世話になってる!だからきょうは何?」 実は、と濫夕は後ろでかしこまってる朴鈴に鳥籠を持ってこさせた。 朴鈴は濫夕について絶賛しごきの真っ最中だ。 かちこちになりながら鳥籠を捧げて膝をつく。 金の籠、中には宝石で飾られた小鳥。 「ねじを巻くと唄います。風琴とも申すそうな」 濫夕がかちりとねじを巻くと、鳥が、ピルルルーときれいな声で鳴いた。 ぱたぱたと走る音がして、緑輝公主が籠の前で立ち止まった。 この公主は皇帝の大伯母に当たる少女で、竜の耳という特殊な聴力を持つせいで人のことばが聞き取れず、時おり暴れたりもするが、紅星のもとでは穏やかに暮らしている。 緑輝公主は籠の鳥を不思議そうに見て首をかしげている。 緑輝公主がいるところでは筆談するのがこの宮での決まりだ。 「この風琴がどうかしたの?」 「実は、この鳥の飾りは西の国から伝来したもので、ある官吏が懐に入れたのですが、この鳥の歌を聞いた者たちは、ひとたび眠りにつくと目覚めないという事態が発生してしまいまして」 濫夕は完璧な作法で膝をついたが、紅星は、その口許がにやっと笑ったのを見逃さなかった。 「伏して後宮の平穏を取り戻していただきたく」 「あーっ!また面倒ごとか!」 そう言いつつ。 紅星は、機械仕掛けの鳥の鳴き声に心を奪われ始めていた。 なんてきれいな声。 いつまでも聞いていたくなる。 「分かったよ!機械の鳥にあたしの技がきくとも思えないけど。緑輝公主がこんなに気に入ったんだから調べてみる!」 「よろしくお願いいたします。紅星妃」
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