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8.
二十年後。
僕は結婚して、家庭を持っていた。
夏休みになり、妻と七歳になる息子の翼と三人で、岩手の祖父の家に遊びに来ている。歳を取ったが祖父も祖母も健在だ。
あれから僕は毎年のように、夏休みには祖父の家に帰省していた。辰ちゃんや真ちゃんとの付き合いはずっと続いていて、今では良い飲み友達だ。
アキラ兄ちゃんの話は時々出る。二人とも兄ちゃんのことは覚えていて、でもあれっきり兄ちゃんは姿を現さないという。
幽霊だってばれたからなのか、僕達が大人になったからなのかはわからない。
息子の翼は辰ちゃん達の子供と年齢が近く、今年初めて引き合わせたが、すぐに仲良くなった。
東京ではゲームばかりの都会っ子なのだが、ここでは嘘のように活発で真っ黒に日焼けして、妻も驚いている。
「お父さん、川で遊んでくるね」
翼は今朝も水着にTシャツ姿、サンダル履きで庭から出て行こうとしていた。辰ちゃんの息子の良亮君達と河原で待ち合わせているらしい。
「遊ぶのはいいけれど、絶対滝に行ったらだめだよ」
僕が声をかけると、翼は元気よく肯いた。
「うん。アキラ兄ちゃんにも言われてる。お前の父ちゃん、昔溺れそうになったから、絶対近づくなって」
翼の言葉に僕は驚く。
「えっ、アキラ? アキラ兄ちゃん?」
「うん。僕の親戚なんでしょ。あ、ほら、お兄ちゃん、迎えに来てくれた!」
翼は庭の入口の植え込みの向こうを指さす。
けれども、そこには誰もいない。いないのだけれど、翼にはちゃんと見えているのだ。
僕はその空間に精一杯の笑顔を向け、心の中で語りかけた。
(アキラ兄ちゃん、また会えたね)
<了>
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