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料理が運ばれてきて、俺たちはワイングラスとデミタスカップで乾杯した。普通ごく少量のエスプレッソを飲むカップはそれでも今の俺の半分近くの大きさで、抱えるようにゆっくり傾けなければいけない。
喉にぐんと沁みるアルコールに唸った。麺をフォークに巻き付けながらハルカがクスクス笑う。
「めっちゃおじさん」
「お前はガキみたいだぞ」
「ガキじゃないもーん」
ガキである。
ペペロンチーノはニンニクが利いていて、唐辛子とアスパラ、ベーコンがオイルにつやつやしている。結構ボリュームがあるのにハルカは全く動じた様子もなく美味そうに食べ進めていた。反面ワインはゆっくりと飲んでいるので、酒には弱いのかもしれない。
あっという間にパスタを平らげてしまうと俺たちのテーブルに流れる空気はたちまち緩慢になった。BGMは会話を邪魔しない気の利いたジャズ、照明の色は控えめな橙だ。横に置かれたキャスケットのつばを何となく触って、俺は正面のお子様が案外静かな酔い方をするのに驚いていた。
グラスを回して、口に含んで、ふうっと息継ぎをするみたいに吐く。白い頬が少し赤い。眠そうな大きな目が俺を見て、テーブルの上の水滴を見て、うーんと唸った。
「寝るなよ」
「起きてる」
「あまり飲み過ぎるな。この後宿探して運んでもらわなきゃならんから」
「常識の範囲なら好きなだけいいって言ったじゃん~」
水滴を指でくるくるひっかく姿は親に駄々をこねる子供のようだ。そう思って、俺はようやくこの男が自分の子供と同じくらいの年齢なのだということを思い出した。
それなのに、今日はずっと彼に世話を掛けさせてばかりいる。ハルカ自身の行動がこの状況の原因なのだとしても、俺が通常の身丈なら酔い潰れたって肩を貸してやれたのだ。
酒が弱気を連れてくる。後ろ向きでいることは冷静から俺を遠ざける。昼間のマーケットで見た明るい光景が幻のようにまぶたの裏でちかちか光った。
「早く大きくならなきゃねえ」
俺の気持ちを察したのかあるいは声に出ていたか、ハルカはふわふわと同じ話題を口にした。しかしその言い方では赤ん坊か木の苗木に向けているようである。
ハルカは相変わらず卓上の水滴でぐにゃぐにゃ遊びながら心地よさそうに笑っている。
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