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魔物が死んだ。
極彩色のカメレオン。俺を食べやすい大きさに縮めて、カメレオンのくせに頭から食おうと口を大きく開けたところで、真横からの衝撃に吹き飛んだ。吹き飛ばしたのは長い髪を尾のように靡かせた青年だった。
青年は俺に気が付かないまま一方的に魔物を蹂躙した。静止の声を上げる隙もなく、いや実際にはやめろと繰り返していたのだがこの距離では届かず、まもなく魔物は動かなくなった。
俺は相応に動揺していたと思う。長髪の闖入者つまりハルカを怒鳴りつけ、魔物の蘇生を試み、それが駄目だと分かると体を元に戻す方法を思いつく限り試した。
駄目だった。
初対面でふた回りは年下の男に結構な醜態を晒してしまったが、事情を飲み込んだハルカは従順だった。暗闇でも分かるほど顔が青くなって白くなって、どうしよう、お詫びなら何でもしますとひたすら頭を下げる。
俺がそれでまず要求したのが、ハルカの戦闘によって壊れてしまった小型ラジオの弁償だったのだ。
持ち運んで重宝していたラジオと同じ身長になってしまった俺に奴は地べたへ這いつくばるような格好で顔を寄せ、金がないから今すぐの弁償はできないが、修理ならできると言った。
「何でもと言ったろ」
「ごめんなさい。でも、ぼくはこういうの直す仕事をしてるから、きちんと元通りにできると思います」
そのときはまだ敬語だった。
それから口論に近いやりとりの末、俺は奴の代案に納得した。渋面でうなずいた俺にハルカはほっと表情を緩ませて、羽織っていたケープの裾をたくし上げる。膝下まで覆うそれの下、腰に巻きつけたポーチからドライバーにペンチ、何やら訳の分からない道具を取り出して、その場に座り込む。そしてすみやかに作業は執り行われた。
ペン型のライトを口に咥え、ドライバーで上蓋を外す。手つきはよどみなく、損傷のある部分とない部分を違えず選り分けて必要なところにだけ手を付けていった。
俺はその場にうずくまるようにした長身の、真剣そのものの横顔を見ていた。時間の経過につれて激高は収まっていき、この奇妙な状況にかえって頭が冴えてくる。器用だな、と心中で彼に感心する。
それから作業が終わるまで会話らしい会話はなかったが、俺が一度だけ思わずつぶやいた言葉には、そぐわない反応が返ってきた。
「この体も、そうやって直せたらいいのに」
弱気がこぼれ落ちる。それに、後にハルカと名乗る知らない男は、顔を上げて苦しそうに眉を下げたのだ。
「ぼくも常々、そう思ってる」
夜はまだ明けない。
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