事の顛末

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 ぼんやりしているわりに奴は聡い男で、俺の無言の指図にも軽く肩をすくめただけで踵を返した。  きちんと帽子を回収して深く被り直す姿を見ながら、なんでこいつ帽子があるのにフード付きの上着羽織ってるんだ、と思う。結構な長身の膝上までを覆う黒のシルエットは洒落っ気もなくくたびれて、そのわりに同色のキャスケットは古いが質の良さそうな品だった。  ちぐはぐさが似合う浮世離れした青年と、中心街の方向へ歩き出しながら真面目な顔で話続ける。 「アンタのその、ちっちゃくなる呪い?も、じゃあ写真で撮ればよかったんだね」 「そうだな、本当にその通りだな。どっかの誰かが横から突進して来なきゃあな」 「それはもう謝ったじゃん」  謝って済む話かと俺は目を剥いた。魔物を追って長い旅の身の上だ。決まった住処もなければ頼れるあてもほとんどない、寂しい男やもめが全長十五センチメートルに縮むなんて、どういう類いの悲劇だろうか。あるいは喜劇か? やかましい。 「手持ちの金も一緒に縮んで、これじゃ使えねえんだ。何よりまともに仕事もできないし、通り歩くだけでうっかり誰かに踏み潰されかねない。ないない尽くしだ、お前のせいで」 「いや悪いのは呪い掛けたあのカメレオンもどきで……」 「なんだ、もう一度言うか? この会話を頭からやり直さねえと理解できないような馬鹿なのか、お前は」  下から思い切り睨み上げれば奴は軽口をやめて肩を落とした。 「ごめんなさい……」  このくらいの年頃にしてはやはり素直な奴である。この平和なお子様のどこにあんなパワーがあるのだろうとつくづく不思議に思ってしまった。  ひょろりと長い手足はいかにも軟弱で、身長はおそらく俺より高いのに体重は俺より軽そうだ。日に焼けない頬はつやつやとして丸く、この辺りでは珍しい黒い目は溌剌としている。これまた珍しい黒髪はひとつに結ってあって、それでもなお長い。少女めいた顔立ちながら逞しく思えるのは、長身に加えて身のこなしに隙がないからだ。 「とりあえず、隣国にある魔術会支部へ行けばまだ解決の道はあるはずだ。それまで働いてもらうぞ」 「はあい、ボス」  そういう顛末である。  森の外れで最悪な出会い方をしたこの若者は思ったよりも扱いやすく、状況も絶望的なまでではなかった。自分では満足に移動もできない体を情けなく思うも、とにかく悲観的になってはいけない。  何事も冷静に。そうすれば大抵のことは何とかなるのだと、俺は知っている。
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