シルバークエスト

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(魔王の城。階段を駆け上がる勇者) 勇者 やっと…やっとたどり着いた…この階段を上りきれば… (重い扉を開ける) 魔王 …!誰だ。 勇者 (息切れして)ハァハァ…お前が魔王だな…? 魔王 ま、魔王…?    あー…いかにも、私が魔王だが…おまえは…? 勇者 俺は勇者だ。 魔王 なにぃ?勇者だと?    えー…    「よく我が魔王城の最上階までたどり着けたものだ。    その根性と体力だけは誉めてやる」 勇者 あいにく、諦めの悪さだけは自慢でね。    どんな苦難が襲い掛かろうとも、俺は決してあきらめない。    なぜなら…あー…えっと…それが勇者だから! 魔王 …。 勇者 なんだ、その顔は?    さては、魔王め、俺のことをバカだと思ってるだろ!    こういうのはな、バカって言った方が、バカなんだよ、バーカ! 魔王 …。 勇者 てか、魔王城にエレベーターすらないって、どういうことだよ。    階段上ってここまで来るのに、どんだけ大変だったかわかるか?    おかげで、こっちは足腰ガタガタのプルプルなんだよ! 魔王 はぁ…勇者よ。それは、大変失礼した。    その様子だと、さぞかし喉が渇いておろう。 勇者 あぁん? 魔王 ほら。こっちに座って、麦茶でも飲まないか。 勇者 なんだ、そりゃ。    そうやって、戦意を喪失させようって魂胆か? 魔王 ははっ。満身創痍なやつをコテンパンにしたって    面白みに欠けるだろう? 勇者 なるほど。さすが世界を恐怖に陥れた魔王は、    そこら辺の雑魚とは言うことが違う。    いいだろう。その言葉、後悔するなよ。 (SE 扉をノックする音) 魔王 はい。 賢者 恐れ入ります。私、伝説の賢者と申しますが、    魔王はご在宅でいらっしゃいますか。 魔王 えぇ、今度は賢者?    (扉を開けて)…どうぞ。 賢者 ありがとうございます。 魔王 で?どのようなご用件で? 賢者 私は、世界の平和を目指し、活動している者です。    このたび、こちらに魔王城があると伺い、    ご挨拶に参りました。 魔王 あぁ、これはこれは、ご苦労様です。 賢者 つきましては、私に倒されて頂けませんでしょうか。    できれば、穏便に。 魔王 いやぁ、丁寧にお申し出いただいても…。 賢者 そこをひとつ何とか。    良かったら、壺もつけます。10万円で。 魔王 まぁ、立ち話もなんですから、奥にどうぞ。    麦茶も冷えてます。 賢者 恐縮です。いやぁ、実はここまで来るのに階段が大変で。 魔王 あー、よく言われます。 (SE 扉をノックする音) 魔王 はーい。どうぞ。 戦士 ここが噂の魔王城だな! 魔王 えぇ、どうやら、そのようで。あなたは? 戦士 俺は勇猛な戦士である! 魔王 えーと…? 戦士 だーかーらー!    魔王を倒すって言ってんの!    この世界を不幸に陥れた魔王、覚悟しろ! 魔王 まぁまぁ、ここまで来るのも大変だっただろう。 戦士 まぁ俺の筋肉にかかれば、こんな階段なぞ、    なんてことない…こともない…ぐはぁっ…(疲労ダメージ)。 魔王 はっはっは。そんなお疲れの戦士のために、    奥にアイスティーを用意してあるぞ。 戦士 おう、魔王のクセに意外と気が利くじゃないか。    茶葉はアールグレイ?それともダージリン? 魔王 「barley tea」…またの名を麦茶という。 (SE 扉をノックする音) 魔王  はーい 介護士 (息切れしながら、戸を開ける)     すみませーん。施設長。     こちらに佐藤さんと、山本さん、     あと大橋さんいらっしゃってますか? 魔王  はいはい。勇者パーティの皆さんは     本日もこちらにお集まりですよ。 介護士 またですか。     はぁ。どうして最上階の施設長室に集まっちゃうんですかね。     階段上るの、足腰がつらくて大変だって文句を言うくせに。 魔王  ははは。 介護士 ほんと…高齢者施設だっていうのに、もう…     ここだけエレベーターがないなんておかしくありません? 魔王  私はとても気に入っていますよ。     まるで、魔王の城みたいじゃありませんか。 (高齢者の演技で) 勇者 魔王!俺が勇者だ!    この必殺の剣でおまえを倒す!    聖なる銀色の光よ!魔を打ち祓いたまえ! 賢者 勇者、それは剣ではなく、杖ですよ。 戦士 あぁ。そういえば腹が減ったな!    おい、飯はまだか? 賢者 足腰膝の関節痛には、効果絶大の回復魔法を…あれ?    呪文を忘れてしまいました…。 戦士 おっ、こんなところにバナナが。もぐもぐ。 勇者 ひぃ!バナナは…バナナは嫌じゃ…! 介護士 お年を召されると、ご自身が一番輝いていた頃に     戻られてしまうそうですが… 魔王  えぇ。     しかし皆さん、とっても生き生きとしていらっしゃる。     実は私も、こうして皆さんが遊びに来て下さるのを     楽しみにしてるんですよ。     (勇者に近づいて)…ね、佐藤さん。 勇者  は…あんた、どちらさんでしたか? 魔王  …(微笑) 介護士 はーい、皆さん。     そろそろおやつの時間ですからね。     お部屋に戻りましょう。 勇者  バナナは…バナナだけは嫌じゃ…! (ぶつぶつ言いながら部屋を後にする) (SE 扉が閉まる音) 魔王 あぁ…これも、因縁というのだろうか。 (回想) 魔王 はっはっは。その程度で終わりか、勇者どもよ。    口ほどにもない。 戦士 …うぅ!ゴホゴホ…。 賢者 …いけません、動いては…! 戦士 大丈夫だ…こんな傷、食えば治る(バナナ喰う) 魔王 これで世界を救うなんぞ、よく言えたものだな。    …ん?なんだ。この期に及んで命乞いか? 勇者 あいにく、諦めの悪さだけは自慢でね。    どんな苦難が襲い掛かろうとも、俺は決してあきらめない。    聖なる銀色の光よ!魔を打ち祓いたまえ!    うおぉぉぉりゃあ! (剣で切りかかったところで、バナナの皮で滑って階段から転がり落ちる) 勇者 う、わ、なんでこんなところにバナナの皮が!?    わぁぁぁぁぁぁぁあ…ぐ…ぐはぁっ! 戦士 あ…あぁ…!勇者っ…! 賢者 なんで、魔王城の階段にバナナの皮が落ちてるんですかー! 戦士 …あ…やべ。(戦士がバナナの皮を捨てたのが原因) 勇者 ――ぐっ…こんな卑怯な手で…戦いに勝とうなんて…    俺はあきらめないぞ…魔王。    どこまでも…地の果てまでも…追いかけて    お前を探し、いつか必ず倒してやる…。 (回想終わり) 魔王 まさかあいつらも、同じ世界に転生していたとは…    これも、腐れ縁というやつなのかもしれんな。    まぁ、奴らが記憶を取り戻そうが、わめこうが、    本気にするやつなどおらん。    似たようなファンタジー系バーチャルゲーム脳の高齢者なんて、    この世にごまんといるんだからな。 (部屋を出て階段を降りる)    ふ…ふふ…はっはっは…。 (バナナの皮で滑って階段から転がり落ちる)    う、わ、なんでこんなところにバナナの皮が!?    わぁぁぁぁぁぁぁあ…ぐ…ぐはぁっ!
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