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「トイレ行くけど、私、もう大丈夫。
綾香も電車の時間でしょ?
綾香の終電の時間も近いし、もうここでいいよ」
トイレの入り口で真希はそう告げると、1人でトイレの中に入って行った。
もう大丈夫とは言っているけど、さっきまでのフラつきかたを見てると、ホームから落ちたりしないだろうかと心配だ。
私はコンコースで真希がトイレから出てくるのを待つことにした。
しかし、いつになっても一向に出てこない。
もうすぐ真希の乗る終電の時間なのに…。
“大丈夫かな?まさか、中で倒れてるんじゃ…”
私が中に様子を見に入ろうとすると、ようやく真希がトイレから出てきた。
「あれー、綾香まだいたの」
「だって真希かなり酔っ払ってたから、心配するじゃん」
「えー、もう大丈夫だよ」
「早くしなきゃ、もう電車の時間だよ」
私は真希の手を引き、改札に向かった。
一緒に改札を抜けて、真希の乗る方向のホームに一緒に上がろうエスカレーターに乗ろうとすると、真希が申し訳なさそうに私を押し留めた。
「さっきトイレで出すもんだしたから、もう大丈夫だし、もう1人で帰れるし。
綾香はここでいいよ。もう大丈夫」
一緒に電車に乗るところまで見送ると言っても全く聞いてくれないので、私もこれ以上の説得は諦めることにした。
まあ、私の中にも、“ここで早めに真希と分かれれば、亘先輩のことを追いかけて探す時間が増える”と考えてしまったという、やましい気持ちが無かったとは言えない。
でも私はそんなことを考えてしまったことを悟られないよう、心配そうな顔をしながら、真希をエスカレーターへと見送った。
真希を見送ったあと、自分も一旦ホームに向かうフリをしてコンコースの柱の陰で待機。
エスカレーター上の真希の姿が見えなくなるのを確認してから一旦トイレに向かい、洗面所の鏡で身なりを整える。
もしこのあと先輩に無事会えたら、“感謝の気持ち”を、ようやく伝えることができるかもしれない。
それならば、最低限自分に自信が持てる状態でいたい。
私の終電時間まで、もうそんなに時間もないけど、もし…、もし、今夜その先を夢見ることができるのであれば、終電に間に合わなくなっても…。
そんな決意を胸に、私は念入りにメイクを直すと、先輩が向かったと思われる飲み屋街の方に歩き始めた。
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