道となれ

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 少し冷たい風に起こされて目を覚ました。小学生の頃から使っている身幅に合わない勉強机に突っ伏して寝ていたらしい僕は少し腕を伸ばして窓を閉めた。聞こえなくなる外の生活音と引き換えに机の上の目覚まし時計がカチカチと大袈裟に鳴る。鉛筆を握って原稿用紙に向かっていた時にはまだ外は明るく、なんなら少し暑かったのに。春が閉じてゆくこの季節は温度調節が酷く下手だ。窓を閉めてもまだ肌寒い身体に一枚パーカーを羽織り、半ば物置と化しているベッドに身を投げた。  目を閉じ、途切れてしまった睡眠の続きを始めようにも書きかけの小説の冒頭が頭から離れず、けれど決して先には進まないまま、身体の向きだけが何度も変わっていく。所々に置いた書きたいポイントとダイナミックな終わらせ方だけがバス停の停留所みたいにぽつんと立っていて、その間を補う気力が今の僕には無かった。今の、というより、ここ何年もずっと、だ。バスに乗ったままぼーっと景色を見てただ着くのを待つみたいに、何もすることができずにまた今日が終わろうとしていた。
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