第二話 さようなら、日常

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「そりゃ逃げる。今の灯点頃、ちょっと怖い」 「へえ、そりゃどーも。ちなみになんで俺が怖いかわかるか?」 「……」  たぶん私が急に居なくなったからだよなあとは思うんだけど、口にしても口にしなくても後が怖い。 「……これは、私はなんて答えるのが正解?」 「知るか」  ばっさり切り捨てられた。  と思ったら、また灯点頃は顔を崩して笑う。 「ほんと、お前は変わらないな、物黎」 「……変わったよ」  灯点頃の言葉に、考えるより先に言葉が出ていた。  ずきりと、胸の底が傷む。  変わってる。だって、そのために仮面屋敷を辞めたんだ。 「変わった。……私は、変わってる」 「へえ?」  灯点頃は、すっと目を細めて私を見下ろした。しばらく私を見てからさらに目を細くして、 「……なるほど、変わったな……」  と小さく呟く。  私はパッと顔をあげる。と、灯点頃がいたずらっぽくニヤッと笑った。 「前より可愛くなった」  すぱっと言う。 「……」  自分でも気づかないうちにジト目になってるらしい。灯点頃はけらけら面白そうに笑った。 「可愛くなったって言われた女子が向ける目じゃないんだよなぁ」 「そういう噓ばっかりついてると、いざというとき信じてもらえなくなる。やめたほうがいい」 「いざというときねぇ。いざというとき俺と一緒にいるのは、だいたい物黎なんだけど。物黎は俺のこと信じてるだろ?」 「いざというときの灯点頃は嘘は言わないから、信じる。でも、今のは完全に噓」 「嘘じゃないんだけど」 「そういう嘘を言うから信じられない」  本当にやることなすこと意味が分からない。  そんなわかりやすい嘘つくのが楽しいんだろうか。 「それはそれとして、物黎、俺がなんで転校してきたか聞かないのか?」 「……灯点頃はなんで転校してきたの?」  まあ、どうせ仮面屋敷の任務だろうな。  灯点頃は二ッと口角をあげ、指を鳴らす。 「正解」 「そうやってすぐ人の心を読む」 「俺が読めるのは物黎の心だけだよ。他の人間は何考えてんのか全然わかんないから。ちなみに、なんの任務かは聞かないのか?」 「……なんの任務で転校してきたの?」 「いい質問だな物黎!」  くるっと一回転して、灯点頃は屋上のフェンスにひらりと飛び乗り、腰掛ける。  さあっと風が吹いて、肩まで伸びた灯点頃の髪を揺らした。 「このあたらよ小学校――――今回のミッションは、あたらよ小学校四階の調査だ。一緒にやるか? 『物黎』」  なるほど、いかにも仮面屋敷が受けそうな依頼だった。  三階建てのこのあたらよ小学校に、四階なんて存在しない。
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