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「そりゃ逃げる。今の灯点頃、ちょっと怖い」
「へえ、そりゃどーも。ちなみになんで俺が怖いかわかるか?」
「……」
たぶん私が急に居なくなったからだよなあとは思うんだけど、口にしても口にしなくても後が怖い。
「……これは、私はなんて答えるのが正解?」
「知るか」
ばっさり切り捨てられた。
と思ったら、また灯点頃は顔を崩して笑う。
「ほんと、お前は変わらないな、物黎」
「……変わったよ」
灯点頃の言葉に、考えるより先に言葉が出ていた。
ずきりと、胸の底が傷む。
変わってる。だって、そのために仮面屋敷を辞めたんだ。
「変わった。……私は、変わってる」
「へえ?」
灯点頃は、すっと目を細めて私を見下ろした。しばらく私を見てからさらに目を細くして、
「……なるほど、変わったな……」
と小さく呟く。
私はパッと顔をあげる。と、灯点頃がいたずらっぽくニヤッと笑った。
「前より可愛くなった」
すぱっと言う。
「……」
自分でも気づかないうちにジト目になってるらしい。灯点頃はけらけら面白そうに笑った。
「可愛くなったって言われた女子が向ける目じゃないんだよなぁ」
「そういう噓ばっかりついてると、いざというとき信じてもらえなくなる。やめたほうがいい」
「いざというときねぇ。いざというとき俺と一緒にいるのは、だいたい物黎なんだけど。物黎は俺のこと信じてるだろ?」
「いざというときの灯点頃は嘘は言わないから、信じる。でも、今のは完全に噓」
「嘘じゃないんだけど」
「そういう嘘を言うから信じられない」
本当にやることなすこと意味が分からない。
そんなわかりやすい嘘つくのが楽しいんだろうか。
「それはそれとして、物黎、俺がなんで転校してきたか聞かないのか?」
「……灯点頃はなんで転校してきたの?」
まあ、どうせ仮面屋敷の任務だろうな。
灯点頃は二ッと口角をあげ、指を鳴らす。
「正解」
「そうやってすぐ人の心を読む」
「俺が読めるのは物黎の心だけだよ。他の人間は何考えてんのか全然わかんないから。ちなみに、なんの任務かは聞かないのか?」
「……なんの任務で転校してきたの?」
「いい質問だな物黎!」
くるっと一回転して、灯点頃は屋上のフェンスにひらりと飛び乗り、腰掛ける。
さあっと風が吹いて、肩まで伸びた灯点頃の髪を揺らした。
「このあたらよ小学校――――今回のミッションは、あたらよ小学校四階の調査だ。一緒にやるか? 『物黎』」
なるほど、いかにも仮面屋敷が受けそうな依頼だった。
三階建てのこのあたらよ小学校に、四階なんて存在しない。
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