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「ここ、私の家」
「へえー……」
それからはお互いに何も言わず歩き続けて、あの会話の後私が初めて話したのは、自分の家に着いたときだった。
正直、家族――お母さんを知り合いに合わせるのはそんなに嬉しくない。
家に居ませんように、とこっそり心の中でお祈りしつつドアを開けると、
「おかえり」
と廊下の奥から声が聞えてきた。
……ダメか。
ちらっと横目で灯点頃を見てみると、さっきまでの空気は何だったんだと言いたくなるくらいいたずらっ子の顔をしていた。
ああダメだ、悪い顔だ。
これは何をやらかしてもおかしくない顔だ。
思わず片手で顔を覆ったとき、
「輝千ー? どうしたの、何やってるの?」
少し焦り気味の声が近づいてきて、お母さんが顔を見せた。
そして、私の隣に立つ灯点頃を見て言葉を失う。
信じられないほどの美少年に驚いてるのか、私が人を連れてきたことそのものに驚いてるのか。
灯点頃はさっきまで悪そうな顔でわくわくしてたくせに、お母さんの声が聞えるなりキラキラな営業スマイルに切り替わっている。百面相だな、こいつ。
「こんにちは、輝千ちゃんのお母様ですか? 初めまして。僕は輝千ちゃんと同じ小学校の五年二組で、実桃刀といいます」
小五とは思えないほどすらすらとしっかり挨拶をして、笑顔のキラキラ度を当社比一・五倍にして、灯点頃は丁寧にお辞儀をした。
横から見た私が思ったことはひとつ、……気持ち悪い!
というか居心地が悪い!
あまりにいつもの灯点頃と違いすぎて、もやもやというかむずむずというか、ぐしゃぐしゃしたよく分からない気持ちになる。
「あらあら、しっかりした子ねぇ」
お母さんはあっさり騙され、ぽかんとして灯点頃に釘付けだ。
ますます居心地が悪い……。
「僕、ついこの間あたらよ小に転校してきたんですけど、実は小さい頃このあたりに住んでて、そのとき仲良くしてくれた友達を集めて、帰ってきた記念にお泊りパーティーやろうっていう話が出てて」
お泊りパーティー!?
斜め上過ぎる単語に、さすがにぴくりと肩が動いた。けど、それ以上の反応は出ない。当然、表情も周りから見たら変わってない。お母さんにも気づかれてないはずだ。
いや、そうじゃなくて、なんだお泊りパーティーって。
「輝千ちゃんとも、少しだけですが一緒に遊んだことがありますし、今回パーティーに呼ぼうと思ってる友達にも、何人か輝千ちゃんと仲のいいメンバーがいるので、よかったら呼びたいと思っていて。突然決まったことで本当に申し訳ないんですけど、今日の夜、予定あったりしますか?」
……まずい。
普通なら、そんな突然お泊りパーティーとか言われても半信半疑だろうし、そもそも急すぎるけど、私のお母さんは……。
「まあ……まあ、そう! そうなの、輝千と仲良くしてくれてたのね」
やっぱり。
お母さんは若干涙ぐんでいて、嬉しそうに、心から安心した笑顔を見せる。
「そうなの……輝千にも、ちゃんとお友達できてたのね。友達の家でお泊り会なんて初めてだわ。よかった……」
お母さんはしゃがみこみ、私の方に両手を乗せて、泣きそうな顔で微笑んだ。
「よかった、お母さん安心したわ。お母さん全然何も知らなくて……ごめんね、輝千。いっぱい楽しんでおいで」
「……うん」
無表情のままでこくりと頷くと、立ち上がったお母さんは今度は灯点頃の方を向き、深々と頭を下げた。
「輝千と付き合ってると、色々大変なこともあると思うけど、優しくていい子なのよ。これからも仲良くしてあげてね」
灯点頃は一瞬言葉に詰まり、ちらりと私を見た。
……さっきの、今日の任務が終わったら、自分のことも仮面屋敷のことも忘れていいって言ったの、気にしてるんだろう。
私はお母さんにバレないように小さくため息をつくと、お母さんの手を握って、笑顔でその顔を見上げた。
「大丈夫だよ、お母さん。
私と桃刀は、友達だから」
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