第一話 鬼姫の日常

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 九条さんが言った通り、その日の朝は全校集会になって、慌ただしく教室に入って来た先生の一声でみんな廊下に整列した。  きちんと並んで体育館に向かいながら、きゃあきゃあとはしゃぐクラスメートに私も混ざる。  四年生に進級してから一週間。  始業式とズレたこの時に転校生となれば十分うわさのネタなのに、それに加えてとんでもなく顔がいいらしいから、話はどんどん盛り上がっていく。  ひんやり涼しい体育館に並んだあとも、ざわめきはおさまりそうになかった。 「こんだけ期待させといて普通の顔だったら、どうするんだろうね」  後ろの子がちょっと私をつついて、いたずらっぽい顔で聞いてくる。  私も二ッと口角をあげた。 「もしかして女子かもよ?」 「うっわ!」  ケラケラ楽しそうに笑った後ろの子は、さらにその後ろの子から話しかけられたようで、ぐるっと体の向きを変えた。  私も前を向き直して、ひとまずほっとする。  大丈夫、ちゃんと普通に話せたはず。  誰にも聞こえないように小さく細く息を吐いて、うっすらと汚れた上履きを見つめる。  そのままぎゅっと口を引き結んで、ステージを見上げた。  イケメンだからとかじゃなくて、ちゃんと転校生を見ておかないと、あとでみんなの話題についていけなくなる。  ただ、それだけだ。  集会が始まって、起立と整列をして、座り直して、先生の挨拶が始まったのを、ぼんやり聞き流す。  校長先生が話す間はみんな静かにしてるけど、うずうずした空気が体育館に充満して、息が詰まりそうだった。  ため息をつきそうになって、ぐっと押し殺す。  先生の話はわりとすぐに終わって、いよいよ転校生の紹介になって。 「(みのる)くん、こっちに来てください」  校長先生が、転校生の名前を呼んだ。  みのる。名前だけなら、別に普通だな、と思う。  まあ名前も顔も、正直どうでもいいんだけど。  どうせ私は、あんまり他人の顔には興味ないし――――と。  次の瞬間まで私は、そう思っていた。
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