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ひゅっと息を吸って、下を向こうとして、だけど惹きつけられた目は言うことを聞かなくて。
思わず後ずさると、後ろに座っていた子の爪先とぶつかってしまった。それでも謝ることすら思い浮かばずに、ステージの中心に進んだ転校生を見つめ続ける。
実と呼ばれたその男の子は、ずらりと並んだ生徒を、切れ長の瞳でゆっくりと見回して。
私の目と、彼の瞳が、バチッと衝突した。
――――ヤバい!!
バッと下を向いたけど、すでに遅かった。
ダンッと、重い音が体育館に響く。
すごく嫌な予感がして顔を上げると、予想通り壇上に転校生の姿はなく。
すでに、ステージから飛び降りている。
キッと顔をあげたその視線が、私を射抜いた。
「……っ!」
また後ずさり、今度は後ろの子の上履きに乗り上げてしまう。
「え、輝千ちゃん?」
「っ、ごめん」
振り向きをする余裕もなく早口でそれだけ返して、もうとにかく何も考えず、素早く、勢いよく両手を打った。
パンッと、こすれるような乾いた鋭い音が鳴り響く。
余裕のなかった実の瞳が、ハッと見開かれる。こっちに歩き出そうとした姿勢で固まる。
お願い――――祈るような気持ちでじいっとその目を見つめ続けると、実は数秒してからふっと力を抜いて、驚いた顔をしている校長先生に頭をさげた。
「すみません、そちらの女の子に蜂に似た虫が止まってて」
「えっ!」
実の近くにいた女の子――――この声、九条さんだ。九条さんが悲鳴をあげる。
実は九条さんの方を振り向くと、絹糸のような艶やかな前髪を揺らし、瞳を細めて優しく笑った。
「びっくりさせちゃってごめんね。僕がステージから降りた音でびっくりしたみたいで、もういないから大丈夫だよ。それに蜂に似てたけど、見間違いだった」
ほんとにごめんね、と花の蜜みたいに甘い声がとろけて、天使の顔がふわりと微笑む。
女の子たちのものすごい歓声があがった。
本当にすみません、ともう一度校長先生に向かって謝りながら、実が再び壇上に上がっていく。
私は息を詰めたまま、まだ柏手の余韻が残る、じぃんと痛い両手のひらを見つめた。
今の私の心臓に五十メートル走をさせたら、きっととんでもない記録を叩きだすに違いない。
これは、本気で、ものすごく、ヤバいことになった。
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