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証
抱き締められた拍子に、私の唇があなたの首筋に当たった。半開きになった唇を閉じて、歯を立てないように気をつける。
快楽でぐちゃぐちゃになった頭でも「痕をつけてはいけない」と思った。独占欲から歯を立てれば、これが最後の夜になるだろう。必死で歯を食いしばり、抱かれる事に集中する。
「お前本当オレに犯されるの好きだな」
耳元で囁く、あなたの満足そうな声。返事をしようと口を開いたと同時に深く突き上げられ、言葉は嬌声に変わった。早くなる律動に合わせ、徐々に自分の声が大きくなっていく。行為そのものが気持ち良くて声を上げているのか、あなたが達しそうな事に興奮して声を上げているのか、もう分からない。
「あっ、あぁッ、なか…ンンッ、ぁ…ッ!なかにだして……ッッ!!」
あなたの腰へ足を絡め、逃がすまいと引き寄せる。するとあなたは上体をおこし、私を見下ろした。その目はたしかに私を見ているのに、瞳からはなんの感情も読み取れない。
あなたは私の腰を両手で掴むと、乱暴に身体を揺さぶり出した。ぐちゃぐちゃと中が掻き回され、室内に喘ぎ声と腰を打ち付ける音が響く。抱き着こうと伸ばした手が空を切った。
「出すぞ」
「やっ、あぁ!!あっ、あああああぁぁ!!」
あぁ、来る。
しかし一番気持ちの良くなる瞬間に性器が引き抜かれた。投げされた身体に白濁がかけられる。
「そう簡単に中に出してもらえると思うなよ」
あなたは私の髪を捕むと膝立ちにさせ、愛液で汚れた陰茎を口の中に突っ込んだ。思わず噎せそうになる。しかし僅かに残った精液の味は、すぐに私の思考を溶かしてしまった。
「んッ……ふぅ……んン」
たっぷり唾液を出しながら先端まで吸い上げる。与えられなかった液体を吸い出すようにそれを繰り返し、終わると汚れてしまった性器をキレイにするように舌を這わせた。そうしているうちに性器は口の中で次第に小さくなり、愛しさから目尻が下がった。愛しいあなたの、愛しい部位。
恍惚とした気持ちでしゃぶりついていると、突然身体を突き飛ばされた。唾液でぐちゃぐちゃになった顔であなたを見る。
「火」
終わりの合図だ。慌てて身体を起こし、ベットサイドに置いてあるライターで火をつけた。
「あと三十分で出るから」
あなたは一口大きく煙を吸い込むと、煙草を手にしたままバスルームへ向かった。その背中を追いかけるでもなく見送る。
身体はまだ火照ったままなのに、頭だけが醒めていく感じがした。終わるといつもそうだ。沢山抱き締められたはずなのに、寂しくて堪らない。あなたしか埋められない寂しさが、あなたのせいで広がっていく。
毎回こうなるとわかっているのに、あなたの連絡を無視出来なかった。私は奥さんの次。いや、次ですらないのかもしれない。本当は私だけを見て、私だけを愛して欲しいのに。
最後になってもいいから、次は歯を立ててやろう。何度目かの決心を胸に、私は脱ぎ散らかした洋服を手繰り寄せた。
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