2.ハルオーンの王

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2.ハルオーンの王

◆◆◆ (珍しいタイプの姫だな)  と、ハルオーン国王アキムは思った。  スイハからやって来たセラティーア姫との顔合わせ。  スイハの姫は、とても健康的に見えた。  その肢体はほどよく引き締まり、細身ながらも生命力に溢れ、動きの端々に機敏さが見て取れる。  意志の強い黒い瞳、シンプルに結い上げられた艶やかな黒髪。  今まで宮廷で見たどんな女性たちとも違っていた。  なにより起伏のなさが。  あまりに流線形だったので、はじめは美々(びび)しい少年が送られてきたのかと錯覚したほどだった。  だがスイハは王女しかいないと聞く。  もし王子がいたら、外に出すわけがない。  それに肌は柔らかそうだし、丸みを帯びた曲線をしている。  こういう女性もいるのだろう。  そう結論付けた。  姫は宮に収まることになったが、後宮ではなかった。  実は、ハルオーンに後宮は存在しない。  先々代王の頃。  戦争寡婦となった女性たちが宮に集められた。  彼女らを養い、またその子どもたちを保護する場所。  王宮の一角を占める宮の役割は、それだった。  だが大勢の女性を見た他国の使者が『後宮』と受け止め報告したことから、"ハルオーンには後宮がある"。  そんな話が広まった。  先王が噂を放置したこともあり、後宮の名で通っているが。  女性や子どもたちに仕事を与え、引き払わせた現在。残るのは召使たちだけであり、静かな宮は、実質、王の私的(プライベート)空間と化していた。  案の定、セラティーア姫も誤認していたので真実を伝え、 「妃はあなたひとりだから、自由に過ごしてくれて構いません」  そう告げた時の、姫の反応は意外だった。  明らかに"アテが外れた"とばかりの表情を見せた。  すぐに取り繕いはしていたが……あれは、何だったのか。  そして今。  彼女の様子を見に来たアキムが目にしたのは、散策中と察するにはあまりに奇異な姫の行動だった。 (……何をしているんだ?)  壁にそって歩き、庭木の影になっている城壁や地面を入念に見ている。  探しもの? いや、まるで抜け穴でも探しているような……。  もしや、よからぬ思惑を持って、宮に入ったか。  そう危ぶんだ途端。  諦めたように姿勢を起こした姫が、いきなり(はじ)けるような笑顔を見せた。  ドキッ (なっ……?)  彼女の視線を追うと、キラファの花を見ている。  キラファは背の低い花木で、ぎっしりと密集したように花が咲く。  揃って花開く今の季節には、とても華やかで(かぐわ)しい。 (あの花が、好みなのか?)  なら、部屋に飾らせるよう、あとで指示しよう。  アキムがそう思う前で、姫がひと花摘み取って。  ラッパのように口にくわえた。 (本当に何をしているんだ――???)  ダメだ、これは推察の範囲を超えている。  直接聞いてみよう。  アキムは姫に声をかけることにした。
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