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「空いたお皿、下げてもいいですか?」
穂高がアイスティーを手に取ったところで、再び夏海が声をかけてきた。
さっきまでも夏海は視界に入っていたが、目が合うことはなかった。
もしかしたら、店内を見渡している穂高の様子を見たうえで、タイミングを見計らっていたのかもしれない。
「あ、はい。とってもおいしかったです」
「それはよかったです」
これだけ言って、夏海は皿とフォークを回収して、奥の厨房に姿を消した。
穂高のあとに来た客はいないから、夏海自身も少しは落ち着けるのだろうか。
少しして夏海が戻ってくると、穂高とは別のカウンター席にいた客が立ち上がり、会計に入った。
そのときも夏海と客は楽しそうに談笑していた。
その様子をまじまじと眺めていたら、夏海とばっちり目が合ってしまった。
立ち去った客を見送った直後のことで、穂高は一瞬でどうすればいいのかわからなくなった。
「あの、少しいいですか?」
ゆっくりと近づいてきた夏海は、微笑みながら穂高にこう聞いた。
穂高がこの申し出を断るわけがなかった。
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