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「改めて、どうですか? うちのお店は」
「あ、はい。すごく気に入りました。雰囲気もいいですし、料理もおいしかったですし」
穂高が答えると、夏海はとても安心したように手を胸に当てて、少し照れたように笑ってみせた。
「私、越智夏海といいます。よければ、お名前をうかがってもいいですか?」
願ってもない展開に、穂高は内心で舞い上がった。
自分のことを知ってもらえるチャンスが来たのだ。これにはすぐに反応することができた。
「僕は、蕨野穂高です」
名前以外の情報は出せなかった。
聞かれてもいないことをぺらぺらしゃべって引かれたくはない。
「蕨野、穂高さんですか。珍しい苗字ですね」
「そうかもしれませんね。正直言って、この苗字はあんまり好きじゃないんですよ」
穂高がこう言うと、夏海はとても悲しそうな表情を浮かべた。
どうしてそんな顔をするのかと、穂高はたまらず次の言葉を出した。
「その、漢字が難しいですし、名前の順になるといっつも最後で、なんか損した気分っていうか、あはは」
そんな理由かと呆れられてしまうと思ったが、決して自分の名前に対して深刻な悩みを持っているわけではないということを伝えたかった。
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