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「いつもの、二人分ね」
「はーい。ちょっと待ってくださいね」
迷いのない足取りでオープンスペース風の席に座った二人組は、メニューを見ることなく大きな声で注文を出した。
夏海の応対もだいぶ砕けていて、どれくらい通えばこんなふうになるんだろうと、穂高は彼らをうらやましく思うのだった。
「ごちそうさまでした」
奥から夏海が戻ってきたのを見計らって、穂高は席を立った。
会計をお願いしようと思ったが、伝票の類がないことに気づく。
「ごめんなさい。今度また、ゆっくりお話させてください」
夏海は困ったような笑顔を見せてこう言った。
夏海は何も悪くないのだから、ここは笑顔を返さないと。
「また来ますね。えっと、お会計は……」
「七百五十円です。あ、言い忘れてましたけど、うちはキャッシュレスのみなんですけど、大丈夫ですか?」
会計用の端末を手に、夏海は慌てた様子でこう言った。
現金しか持っていない客が過去にいたんだろうと、容易に推測できた。
「大丈夫ですよ。じゃあ、カードで」
タッチ決済ができるカードを見せると、夏海はほっとした表情で端末を差し出した。
軽やかな電子音が鳴って、支払いが完了する。
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