第1話

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「いつもの、二人分ね」 「はーい。ちょっと待ってくださいね」  迷いのない足取りでオープンスペース風の席に座った二人組は、メニューを見ることなく大きな声で注文を出した。  夏海の応対もだいぶ砕けていて、どれくらい通えばこんなふうになるんだろうと、穂高は彼らをうらやましく思うのだった。 「ごちそうさまでした」  奥から夏海が戻ってきたのを見計らって、穂高は席を立った。  会計をお願いしようと思ったが、伝票の類がないことに気づく。 「ごめんなさい。今度また、ゆっくりお話させてください」  夏海は困ったような笑顔を見せてこう言った。  夏海は何も悪くないのだから、ここは笑顔を返さないと。 「また来ますね。えっと、お会計は……」 「七百五十円です。あ、言い忘れてましたけど、うちはキャッシュレスのみなんですけど、大丈夫ですか?」  会計用の端末を手に、夏海は慌てた様子でこう言った。  現金しか持っていない客が過去にいたんだろうと、容易に推測できた。 「大丈夫ですよ。じゃあ、カードで」  タッチ決済ができるカードを見せると、夏海はほっとした表情で端末を差し出した。  軽やかな電子音が鳴って、支払いが完了する。
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