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「お一人様ですか? よろしければ、こちらのカウンター席にどうぞ」
エプロン姿の女性にこう言われて、穂高は小さくうなずいてみせた。
ただ、すぐには移動せず、まずは店内を見渡すことにした。
やわらかな間接照明が灯る落ち着いた雰囲気で、耳を澄ませないとよく聞こえない程度の音量で音楽が流れている。
入って正面の位置には半円型のカウンター席があり、その両脇にはテーブル席がある。
片方はオープンスペースになっていて、もう片方は半個室のようになっている。客は何人かいるがその多くは一人のようで、全体的に静かだった。
さっき声をかけてくれた人以外に店員の姿はなく、穂高はゆっくりとした歩みでその人のもとへと向かった。
言いようのない緊張感が穂高を襲う。
「こんばんは。こちらにいらっしゃるのは初めてですね?」
お店の雰囲気によく合うやわらかな声に、穂高の緊張は少しだけ和らいだ。
少なくとも、この問いかけに対応できるだけの落ち着きを得ることはできた。
「あ、はい。そうです」
穂高がこう言うと、女性はにこりと微笑んでくれた。
声だけでなく笑顔もやわらかい印象で、穂高はこれだけでもこのお店に来てよかったと思ってしまうのだった。
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