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「こちら、メニューです」
「あ、ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
これだけ言って、女性は穂高のもとを離れていった。
どうやらカウンターの奥に厨房があるらしく、そちらに料理を取りに行ったようだ。
「将司くん、できたよー」
女性が笑顔でこう言うと、テーブル席にいた客がカウンターに近づいてきた。
配膳されるのを待つのではなく、自分で取りに行くスタイルのようだ。
「夏海さん、ありがとう」
この店員の名前は夏海というらしい。
客と店員が名前で呼び合うとは、なかなか距離感が近いお店だと、穂高はやや戸惑いを覚えた。
「食べ終わったら感想聞かせてね」
「絶対うまいですよ。もう見た目が最高ですもん」
それでも、笑顔で言葉を交わす二人を見ていたら、純粋にうらやましく思えた。
こんなふうに親しげに話せる店員がいるお店を、穂高も欲しいと思った。
「お決まりですか?」
穂高がぼんやりと夏海と客の様子を眺めていたら、その視線に気づいたのか、夏海が穂高のもとに歩み寄ってきた。
先ほどの客に向けられていた笑顔と同じ柔和なもので、穂高もまるで、自分がここの常連客であるかのように思うことができた。
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