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「お待たせしました。こちら、特製ミートソースとアイスティーです」
笑顔の夏海がこう言って、穂高の目の前に丁寧にお皿とグラスを置いた。
カウンター席にいるからなのか、それとも穂高がまだ自己紹介をしていないからなのか、さっきまで見ていたやりとりができず、穂高は内心で少しだけ悔しく思った。
「フォークやスプーンはこちらに、アイスティーはお好みでミルクやシロップを使ってくださいね」
夏海はこう続けたあとも、穂高のもとを離れなかった。
他の客の対応に追われていないからなのか、初めての客の感想が聞きたいからなのかはわからないが、夏海はにこにこした様子で穂高をじっと見ていた。
この笑顔ならば、視線を向けられたままの食事も悪くないと、そう思った穂高は、夏海のことは気にせずに食事を始めることにした。
「いただきます」
小声で言いながら手を合わせ、フォークのみを使って麺をすくいあげる。
スプーンを使ったおしゃれな食べ方はできないし、くるくる巻きつけることもしない。
「お味はどうですか?」
穂高が咀嚼し終えるのを待って、夏海が尋ねる。
間合いの取り方も、過度じゃない敬語の使い方も、とても心地いい。
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