The Tempest

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 ぐらぐらと悲鳴を上げる記憶はさておき、僕は喉が渇いていた。  きっと海に落ちてから、暫く海藻の様に水面を揺蕩っていたせいで腹の中には何も無い。いや、正確に言うと安定の塩分を海水で補給していたぐらい、か。  目の前に広がるのは水でしか無いのに、これが飲めないだなんて一種の拷問だ。僕は大きく溜め息を吐きながら、やっと感覚のコツを掴んだ砂浜に立った。  手入れされていない砂浜なのか、大きな木片から布切れ、麻の紐らしき何か……その先に絡まるものは精神衛生上気にしないにしても、それを差し引いても触り心地のいい砂浜の景色は美しく見える。 ──これが普通の旅行なら、何の文句はないのだが。  やれやれと呑気な考えに首を振って、ゆっくり踏み締めて歩く砂は、踏み込んだ分だけ沈み、もうとうに酔いが覚めた筈の僕を再び千鳥足に戻す。 「本っ当、厄介だなぁ」  悪いのは自分でしか無いから誰に当たっても仕方ないが、残念ながらこうやって人や物のせいにするしか納得がいかない。  どれだけ時間が経っただろうか?  僕を嘲笑う様にジリジリと睨みつける太陽は、ただえさえ水分の抜けた僕を汗ばませる。 「クッソ……!」  砂浜の先にあったのは、『ジャングル』に呼ぶに相応しい森林だった。あちらこちらで鳥が囀る森の中、湧水やら川があってもいいぐらいだが、どれだけ探し回ってもそれらしき水源は見当たらない。  それどころか、地面はありえないほど硬い木の根で覆われ、一滴の水すら逃さないとでも言いたげに僕を睨んでいる。  この島は、人間が住む場所じゃ無い。  部外者の僕を詰るような島の待遇は、折角拾った命の灯火に強く息を吹きかけられている気分だ。 「あぁー、やっぱ僕、死ぬのかなぁ」  潮で真っ白になった燕尾の上着を脱いで地面に敷き、その上で胡座をかいた僕は頬杖をついて、残りの時間の過ごし方を考える。  どうせ死ぬなら金と美人に囲まれて、たらふく焼肉を食って安穏に死にたい。それから、叶う事ならもう一回浴びるように酒を飲みたい。 出来る事ならカミカゼとか、ジンライムとか強めの酒を……。  頭の中で浮かべた想像に僕がニヤけていると、僕の頭上を掠めるように鳥が数羽飛び出しだ。 「うわっ……何すんだよ!」  人が走馬灯のように思い出に浸っているのに、それすらも許さないと言うのか、この島は……。  海水が渇いてバリバリになった髪をクシャクシャと掻き乱し、僕は空を睨んだ。空に手を伸ばして覆う木の枝はザワザワと不穏な音を立てて僕を威嚇し、僕はそれに負けじと「煩せぇー!」と怒鳴り声を上げる。  僕の声が森中にこだますると、森はまるで生きているかのように静まり返った。
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