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「おぉぅい、そこの若人……!」
遠くから人の声がする。その声は酷く嗄れていて、顔を見なくとも声の主が老人である事がわかった。
──人がいる!
しかし、たったそれだけの事実は、僕にとって大きな希望となるには十分過ぎる。
「あ、あの……僕、船で遭難したんです……!」
胡座を慌てて崩しながら立ち上がって周りを見渡した僕の前に現れたのは、腰に巻かれた布以外はほぼ裸体に近い老人だった。
その老人は全体的に痩せこけており、剥き出しの上半身からは皮膚越しにしっかりと肋骨が顔を覗かせ、腹は背とくっつきそうなほど薄い。
その上、艶の無い黒々とした髪は乱雑に纏めて結ばれ、落ち窪んでぎょろぎょろと動く白目の黄ばんだ目玉が強い悪印象を残す。
「それは大変だったなぁ……それよりも、何かお探しかな?」
顔を引き攣らせる僕を知ってか知らずか、ガタガタと隙間のある歯をニンマリと見せる老人は友好的に僕に話しかける。
「……喉が渇いたので水を探してて」
老人の好意を疑うように眉を顰めた僕は、ドギマギとしながら老人の様子をまじまじと伺った。
「なるほど!……この島は水が殆ど無い。そりゃ喉も渇くだろうに」
「殆ど、ですか?」
「あぁ、殆ど」
勘繰る僕を訝しむ素振りひとつ見せないその老人は、ふぉふぉふぉ……と笑いながら「案内しよう」と僕を手招きする。
「案内って、どこに?」
「泉さ!……この森唯一の泉、とても貴重な水源だよ」
「ありがとうございますッ!」
『泉』という言葉に嬉しくて飛び上がった僕は、勢いよく体を90度に曲げて敬意を表す。
その様子を満足そうに見つめる老人は、「いやいや、困った時はお互い様だろう?」と微笑んだ。
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