The Tempest

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 老人に案内された『家』は、粗末な作りでありながらも、しっかりと家の形を保っている。  全体は木で出来ており、簡易的な机と調理台のような場所、それから大きなドラム缶が置かれていた。ドラム缶の中は空っぽで、ひどく錆びているのか金属の匂いがプンプンしている。  老人が机の上に置いていった蝋燭はすっかり消え、室内は文字通りの真っ暗だった。 「うぅ……ッ」  そんな状況でも、内臓を捩るような腹痛は安定する事なく波のように押し寄せて、酷く僕をいびる。 ──野糞、しか無いよなぁ……。  今まで確かに裕福な生活をした事はないが、野糞をするほど落ちぶれた生活でもなかった。  大体一般的な家庭に、大体一般的な感覚。  だからこそ、外で堂々と排泄するのには少しばかり抵抗がある。しかしそうは言っても背は腹に換えられないので、僕は渋々家の扉を開けて外へ出た。 「若人、眠れないのか?」  生臭い獣の香りを運ぶ風に、老人の嗄れた声が靡く。 「いや、ちょっと腹が痛くて」 「おや……体が冷えたのかのぅ。ほら、暖かいからここに座ると良い」  闇夜の中で焚き火に当たる老人は、僕の顔を見るなり焚き火の前に座るように勧める。 「冷えというより、変な病気を拾った方が正解だと思いますよ」  折角のご厚意に甘えて焚き火の前に座った僕は、揺らぐ炎をぼんやり眺めた。  住み慣れた家では、なかなかこんな機会は無かったなぁ……だなんてしみじみと感じている僕の意識を連れ戻すように小さく爆ぜた火の粉が幻想的に舞う。 「今日は客人が来た吉日だ……少しく小噺でもしようか?」  ふぉっふぉっふぉっ……と笑う老人の顔が焚き火の炎に照らされ、言いようのない不気味さが強調される。  本来なら小噺どころでは無いが、老人の長話に付き合ってやるのも孝行の内か。  静かに溜め息を吐いた僕は「そうですね」とだけ答えて、老人の次の言葉を待った。 「そうじゃのう……お主は『遭難した』と言っていたから、それにまつわる話をしよう……」  鶏ガラのようにゴツゴツと骨張った体を丸めた老人は、無骨な指を組んでゆっくりと深呼吸をしてから舌で唇を湿らす。 「昔々、とある大船が海を航海していた話さ」
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