お化け団地

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「別に入ったかなんて見やしないわよ。でもね、立入禁止の建物の前に自転車があって、フェンスがすこーし開いてたら、そりゃあ忍び込んだ人がいるって疑うもんでしょ」 「は、そういえば本官も、上司から「別に何もないだろうけど、見るだけ見てこい」と言われて来たのであります!」 ふたたび、フェンスが揺れたような大きな音がす?。 「警察官なんだから、中を見回って危ない人がいないか確かめてくださらない?いやよ、知らない人が廃墟に入り込んでるなんて」 女の人の声がだんだんハッキリと聞こえるようになってくる。 「こっちに来てる!」 見つかったら何を言われるか、分かったもんじゃない。しかも、話している内容から、2人の片方は警察官のようだ。 委員長は、頭の中の検索バーに「アパートに忍び込む 逮捕 逃げる方法」という文字を入れるが、良い答えはまるで帰ってこない。 「とりあえず、逃げないと」 そう思った委員長は口を手でふさぐと、足音が立たないように、しかし小走りで階段を登りだした。  2 「いくよ。いつもどおり魔法と忍術を使って、先に相手にタッチした方が勝ち。いいよね」 「うん、いつでもいいよ」 誰もいないはずのお化け団地の4階で、2人の女の子が動いていた。一人は手に鉛筆くらいの長さの木の棒を持ち、もう一人は小さな巻物をくわえている。 木の棒を持っているのは月崎千子こと魔女のチコであり、巻物をくわえた方は(しのび)の影山おとはである。 「手足よ重くなれ!」 チコが棒を振ると、先端から黄色の光が吹き出した。 「土遁、地泳ぎ」 光が飛ぶ先で、おとはが両手の指を複雑に絡み合わせる。 すると、まるでプールに落ちていくように、おとはの体がするすると床の中に沈んでいく。おとはの姿が完全に消えるのと同時に、チコの放った魔法が外れる。 コンクリートでできているはずの床には、コポコポと小さな泡が浮かんで、やがて消えた。 「……どこから来るの」 注意深く目線を配っているチコの後ろで、おとはが床から飛び出す。 「スキあり!」 チコは振り向きもしないで、棒の先をおとはの声がする方に向ける。 「体よ(しび)れよ!」 放たれたオレンジ色の光が、おとはの鼻先で弾ける。地面から飛び出してきたおとはの体がぐらり、と傾いた。
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