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「勝った!」
チコがそう思ったとき、ぽん、という軽い音がして、おとはがいた場所に大きな丸太が現れる。
「忍法、代わり身」
いつの間にか、チコの隣に姿を現したおとはが、少し高いチコの肩を軽く叩いた。
「タッチ。……私の勝ち、だね」
「そうだね」
チコはしぶしぶ、という様子で答える。そして、あごに手を当ててぶつぶつと言い出す。
「呪文と杖の振りは、おとはの動きについていけてる。ってことは、忍術を予想できないで後手に回ってる私の判断が遅いせいってこと?杖を使ったらどうしても魔法って真っすぐ飛んでいくけど、おとはの動きを予想して、魔法を置きに行く感じで動けばいいってこと?
いやいや、高度すぎ。未来予知でもしろってこと?いいかもね、水晶玉でも抱えてくれば魔女っぽくて。だいたい、超スピードで動き回る忍に魔法を当てるのだって、生半可なことじゃないんだから……」
「あの、チコちゃん。気付いてないかもしれないけど、思ってることが全部口から出てるよ」
おとはは口から巻物を外して、上着のポケットに入れた。
「ごめん」
チコは手の中の杖を指先で転がす。
「おとは。いつも練習付き合ってくれてありがとう。おとはが練習相手だから、思い切って魔法を使えてるってとこ、あるから」
「私もチコちゃんが魔法使ってるところ、きれいだから好きかなあ。私ももっと忍術を練習しなきゃ」
そのとき、2人がいた近くの階段から物音がした。
「な、なに?動物でもいるのかな」
おとはが後ずさりながら聞いた。
「とにかく、どこかへ隠れよう。上田先生も言ってたけど、ここに入ってたことが誰かに見つかったらヤバいから……」
チコが言い切る前に、下の階から物音の主が駆け上がってくる。
「ねえ、あれって委員長?」
おとはがつぶやくと、委員長がすばやく2人を見つけた。
「あなたたち!」
「ちっ……」
小さな声で叫ぶという器用なことをしながら、委員長はチコとおとはに近づいた。
「月崎さんと影山さんですよね、同じクラスの!私、委員長の桜井律です、こんなところで偶然ですね!私、お化け団地に忍び込んだ生徒がいないか探していたんですが、それはともかく今少々困った状況になってしまっていて、ちょっと助けていただけませんか!?」
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