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チコが言ったとおり、廊下の突き当たりに、階段へ続く踊り場があった。
「ああ、助かりました。もし、委員長が禁止された建物に入り込んでいたと知られれば、世間の注目を浴びてしまいますから」
「いいから早く!」
ほうきと委員長の手を握ったまま、チコは廊下を曲がって踊り場へ飛び込む。
その瞬間、先頭を走っていたチコは、目の前に階段がないことに気が付く。本当なら3階へと続く階段があるはずの場所には、がらんどうな空間が口を開けていた。
チコは慌てて両足を踏ん張った。しかし、すぐ後ろを走っていた委員長の体がぶつかって、2人は踊り場から押し出される。
「わーっ!!」
チコは、とっさに踊り場の手すりをつかみ、片足を踊り場の縁にかけて、なんとか空中に投げ出されるのを防いだ。
だが、
「お、重い……」
「すいません、月崎さん!大丈夫ですか」
ほぼ走ってきた勢いを止められずに、踊り場から飛び出してしまった委員長が、チコの体にしがみつく。
クラスでも1、2番の高身長である委員長につかまれて、チコも気が気でない。
「ちょっと!あんまり動かないで」
「ですが、委員長としてご迷惑をかけるわけには!」
「そういうの今いいから!大人しくしてて!」
「チコちゃん、大丈夫!?」
後から来たおとはがチコの腕を支える。しかし、2人分の体を支えるチコの腕は小刻みに震えて、今にも限界が来そうだ。
どうしよう。どうしたらいい。
チコはごく短い間に、考えを張り巡らせた。
チコ一人だけなら、ここから逃げ出すことなんて、とても簡単にできてしまうだろう。
おとはも同じだ。忍にとって、こんな状況はピンチでもなんでもない。
なら、委員長はどうなる?
チコとおとはが委員長を置いて逃げたら、彼女は間違いなく大人に見つかって、お化け団地に忍び込んだことを怒られるだろう。
もしもそのとき、「お化け団地から私を置いて逃げた人がいる」と言われたら?
それで自分たちに火の粉が降りかかってきたら、どうする?
「それと、魔女だとバレないように気をつけてね」
今朝、母さんに言われたことが頭によみがえる。
くそ、こんな危険な賭けをしなきゃならないなんて。
チコは、服のポケットから「木の棒」を取り出して、委員長に叫んだ。その目に虹色の光がきらめく。
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