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月崎千子が少し変わった方法で学校に向かっていた頃、モトミヤ市立宮代小学校では、教頭の田辺先生がカギの束を持って職員室から出てきた。ひょろりとした細長いシルエットの田辺先生は、近頃ひどい肩こりに悩んでおり、肩を叩きながら静かな廊下を歩く。
宮代小学校の昇降口は、田辺先生が午前7時半に開けることになっている。
今日も時間ちょうどにカギを開けようとすると、すでにガラス扉の向こうで女の子が立っていた。
背の高い女の子は腰に手を当てて、まっすぐ昇降口を見ている。田辺先生は昇降口のカギを開けると、扉をめいっぱい開く。
「おはようございます!」
「はい、おはようございます。もう入ってもよろしいですよ」
女の子はさっと頭を下げると、田辺先生の横をすり抜けていく。先生も毎日のことだから、女の子に道を譲ってやり、廊下を駆けていくのを見送った。
女の子の名前は桜井律という。四年生のときは「桜井さん」「りっちゃん」などと呼ばれていたが、4月になってからは「委員長」と呼ばれることの方が多くなった。
それもそのはず。律は五年生になって、新たなクラスで学級委員長になったからである。
新学期が始まってすぐ、自分がどこの委員会をやるのか決める時間があった。
「はい、はい!私、学級委員長やりたいです!」
律はそこで、誰よりも早く学級委員長に名乗りを上げ、勢いのまま委員長の座を射止めることに成功する。
そのときはただ、委員長という言葉がかっこいいから、一度なってみたいと思っていただけだった。
しかし、委員長に立候補したときの、クラスメイトの期待が込もった視線を思い出すと、「じゃあそれに応えてやろうか」とやる気が出てくる。
そうして親分気質の委員長は、毎朝昇降口の鍵が開くのを待ち構えては、誰よりも早く教室に行くようになった。
一番乗りで教室に飛び込むと、委員長は自分の机にランドセルを放り投げる。委員長はやることがたくさんあるのだ。
ただし、彼女の場合は、先生から頼まれたことより、自分からやっていることの方が多い。
まずは黒板をきれいにして、短くなったチョークを新しいものに交換する。
次に、日直の机に学級日誌を置く。
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