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去年は転校生だから、ということでクラスメイトが気を使って、なんとか友達と呼べる相手を作ることができた。
ところが、五年生に進級してクラスの半分が入れ替わったせいで、おとはの人見知りがぶり返してしまう。
人と話す恥ずかしさを避けるために、おとはが編み出したのが「チャイムが鳴って生徒全員が席に着いたら、誰にも気付かれないように、忍術で教室に忍び込む」という方法だった。
そんなやり方で登校されたら、いつかバレるんじゃないか。
去年、ひょんなことからおとはが「忍」だと気が付いたチコだったが、同時におとはにも、チコが「魔女」だということがバレてしまったのだ。
「おとはが忍だってバレたら、一緒にいる私も危ないんだから!」
チコは毎朝、おとはの席が空いているのを見るたびに、そう思うのだ。
5
「今日は連絡が2つあります」
上田先生は、出席を取り終わってようやく目線を上げた。
「1つ目は西宮祭のことです。来週の学級会で何をやるか決めるので、みんなやりたいことを考えておくように」
西宮祭は年に2回行われる、宮代小学校を挙げた一大イベントだ。春は「文化篇」と呼ばれ、校内はもちろん、保護者や地域の人も招待した上で、各クラスで展示や発表をしている。
更に、新五年生にとって西宮祭は、今までとは違う意味を持つようになる。
生徒たちがにわかに盛り上がり、あちこちで話し始めるが、上田先生ははいはい、と手を叩く。
「静かに。もう1つはあまり良くない話です。学校の裏門を出たところにある坂を昇った先に、工事中になったままのアパートがあります。知っている人はいるか」
上田先生がクラスを見渡すと、数人がおずおずと手を挙げる。
「そんな場所があるんだ」
いつも正門から登下校している委員長はそう思った。
委員長の家は駅前の商店街で居酒屋を営んでいる。それに、友達も商店街の近くの子が多いから、学校をはさんで反対側のことはよく分からない。
「この前、学校に相談の手紙で『学校の北側にある工事中のアパートですが、子ども達が忍び込むのを見ました。工事中の場所で危ないから、入らないように注意してほしい』というような相談が来ました」
上田先生は細い目がくわっと開いた。
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