魔女・忍・委員長

6/7
前へ
/15ページ
次へ
去年は転校生だから、ということでクラスメイトが気を使って、なんとか友達と呼べる相手を作ることができた。 ところが、五年生に進級してクラスの半分が入れ替わったせいで、おとはの人見知りがぶり返してしまう。 人と話す恥ずかしさを避けるために、おとはが()み出したのが「チャイムが鳴って生徒全員が席に着いたら、誰にも気付かれないように、忍術で教室に忍び込む」という方法だった。 そんなやり方で登校されたら、いつかバレるんじゃないか。 去年、ひょんなことからおとはが「忍」だと気が付いたチコだったが、同時におとはにも、チコが「魔女」だということがバレてしまったのだ。 「おとはが忍だってバレたら、一緒にいる私も危ないんだから!」 チコは毎朝、おとはの席が空いているのを見るたびに、そう思うのだ。  5 「今日は連絡が2つあります」 上田先生は、出席を取り終わってようやく目線を上げた。 「1つ目は西宮祭(さいぐうさい)のことです。来週の学級会で何をやるか決めるので、みんなやりたいことを考えておくように」 西宮祭は年に2回行われる、宮代小学校を挙げた一大イベントだ。春は「文化篇」と呼ばれ、校内はもちろん、保護者や地域の人も招待した上で、各クラスで展示や発表をしている。 更に、新五年生にとって西宮祭は、今までとは違う意味を持つようになる。 生徒たちがにわかに盛り上がり、あちこちで話し始めるが、上田先生ははいはい、と手を叩く。 「静かに。もう1つはあまり良くない話です。学校の裏門(うらもん)を出たところにある坂を(のぼ)った先に、工事中になったままのアパートがあります。知っている人はいるか」 上田先生がクラスを見渡すと、数人がおずおずと手を挙げる。 「そんな場所があるんだ」 いつも正門から登下校している委員長はそう思った。 委員長の家は駅前の商店街で居酒屋を営んでいる。それに、友達も商店街の近くの子が多いから、学校をはさんで反対側のことはよく分からない。 「この前、学校に相談の手紙で『学校の北側にある工事中のアパートですが、子ども達が忍び込むのを見ました。工事中の場所で危ないから、入らないように注意してほしい』というような相談が来ました」 上田先生は細い目がくわっと開いた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加