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お化け団地
学校のすぐ北には、高台がある。裏門から続く坂を昇っていった先には、台場町という地区がある。
ずっと昔、台場町のある場所には、この地域一帯を収める城が建てられていたらしい。今となっては、台場町は住宅地として開発されていて、城の名残は、台場町にある城台公園という名前として残っているだけである。
急な坂を昇って、学校のある宮代町を振り返ると、見晴らしのいい光景が見られる。
「お化け団地」はそんな台場町の外れに、ぽつんと立っていた。
「ここが、お化け団地……初めて来た」
学校から家に帰るなり自転車を走らせた委員長は、荒い息を整えながらアパートを見上げた。
アパートは人が入れないように金網フェンスで囲まれて、ひっそりと静まり返っている。
フェンスには看板が取り付けられていて、そこに書かれた完成予定日からかなりの時間が経っているのが分かる。完成の暁には、このアパートは「コーポラス台場町」と呼ばれる予定だったらしい。
東西に伸びて、4階までの床と天井、それを支える柱や、わずかな壁が鉄骨とコンクリートで作られている。骨組みだらけの見た目は「アパートのガイコツ」といった感じで、まさに「お化け団地」の名前に相応しい。その姿を見ているうちに、委員長はこの場所だけが別世界のように感じた。
「たしかに、こんな場所に生徒が入っていたら問題になるよね。私が確認しなければ」
その言葉は真剣そのものだが、委員長の口元は少しだけ笑っているように見えた。
委員長は自転車にまたがったまま、アパートに入れそうな場所を探す。程なくして、高さ2メートルくらいの、金網でできた門を見つけた。
自転車を停めると門を少しだけ開けて、お化け団地の敷地内に体を潜り込ませる。
「わわっ」
フェンスの内側は、変な空気が漂っていた。何年も閉めていたの物置を開けたときのような、どんよりとまとわり付くような空気が顔に当たる。
「うーん、建築途中で放置されると、空気も古くなるのかな」
顔の前で手を振りながら、委員長はアパートの一階に入る。一階は上の階よりは少しばかり壁が多めに建てられて、部屋のようなものが出来上がっている。
「うわあ……なんだか、見回りのしがいがありそう!」
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