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委員長はわくわくした気分だった。はじめのうちこそ、何か見てはいけないものがあったらどうしようと考えていた。
しかし、次第に、入ったらいけないと言われる場所に忍び込んでいることのスリルが高まってきたのだ。
せっかくなんだから、お化けの一つや二つ出てきてもらわないと面白くない。
委員長は部屋に次々と入り込んでは、目ぼしいものがないかと見て回った。
「お化け団地」の床はコンクリートが打たれて、ところどころに工事に使うような資材が置かれたままになっている。
ものを蹴飛ばさないようにゆっくりと歩いたが、10分ほどで一階はあらかた見終わってしまった。
「ううん、面白そうなものはなかったなあ。『別の世界とつながる扉!』とか『場所に縛られた幽霊!』なんて、あったら面白かったのに」
いくぶんがっかりした気持ちで委員長はアパートの中を見渡す。入ったときは薄暗くて気味が悪いと感じたが、だんだん慣れてくるとなんてことはない、作りかけの建物というだけだ。
「一応、上の階もひととおり見ておこうかな。なんてったって、勝手に忍び込んでいる人がいないかの見回りだし」
委員長は当初ここに来た目的をようやく思い出した。今となっては自分こそが「勝手に忍び込んでいる人」になっているのだが、そんなことはまるで気が付いてないような様子だ。
委員長は近くの階段を登り始めた。11段で踊り場に着いて180度折り返し、また11段の階段を登ると2階へとつながる。
委員長が踊り場まで階段を登ったところだった。アパートの外でフェンスが揺れる、「かしゃん」という音が聞こえた。続いて、
「ちょっとお巡りさん、見てくださるかしら。こんなところに自転車が停まってるの、おかしくありません?」
年配の女の人の声がした。続いて、
「やや、本当ですな!放置自転車とは、あまり感心しないでありますな」
「そうじゃなくて、これ!自転車の目の前のフェンス、ちょっと開いてるじゃない?誰かが入り込んだんじゃないの、これ?」
「は、それであれば問題ですな!本官などは、このような場所に忍び込む気持ちは分からないではないでありますが、本当に入り込んだ者がいたのか、どなたか目撃したのでありますか」
委員長は体中から汗が吹き出した。
「私が入るのを誰かが見ていたのかな」と、思い出してみる。
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