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魔女・忍・委員長
春休みの頃には見事に咲き誇っていた桜が、すっかり緑色に変わった頃。ここ、モトミヤ市西部にある、市内でも一番大きいマンション「ヒルズ西モトミヤ」の一室から、物語は始まる。
もっとも、一番大きいマンションと言っても、ヒルズ西モトミヤは7階建てである。大人がひとり一台自動車を持っているような田舎のモトミヤ市では、わざわざ街中のマンションに住んでやろうという人の方が珍しいのだ。
そのヒルズ西モトミヤ4階にある、402号室のある部屋の前で、詰め襟の学生服を着た男の子が声を張り上げている。
「チコ、早く起きろよ。そろそろ起きないと、今度こそ学校に遅れちゃうぞ」
男の子はドアをバンバン叩いて部屋の中へ声をかける。
「ちょっと、朝からそんな風に大きな音を出して、となりの人にご迷惑でしょ」
母さんが台所から顔だけ出してたしなめた。
「そうは言うけど、俺がどんなにやってもチコが目覚ましどおりに起きてきたことなんてないよ」
「それはあなたが早起きだからじゃない。最近部活で朝練だ、なんて言って飛び出していくんだから、チコが一緒に起きられなくたって無理もないでしょ」
さあさあ、と母さんは男の子を急かす。
「チコは私が起こすから、早く行きなさい」
「ちぇっ。母さんはチコに甘いんだから。そんなんじゃ、中学生になったときに苦労するぜ」
そう言って男の子は家から出ていった。開いた扉が音を立てて完全に閉まると、母さんはドア越しに呼びかける。
「お兄ちゃん出かけたから、あんたも早く支度なさい」
それから10秒ほど経ったところで、ドアが開いて女の子が現れた。てっきりまだ寝ていたのかと思いきや、全身黒い服を着て、背中にはランドセルを背負い、いかにも登校の準備は万端といった様子だ。
しかも、女の子はおよそ小学生が通学するにはふさわしくない、木製の箒を持っている。
「おはよ。お兄ちゃん、やっと行ったんだね」
「前みたいに二人で学校行きたいのよ、きっと。たまには一緒に行ってあげたらどう?」
「それはイヤ。やっと静かに通学できるようになったんだし、コレの練習もしたいから」
そう言って、チコと呼ばれた女の子は箒を揺らして玄関へ歩いていく。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい。あ、そうそう」
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