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私は昔からほたるちゃんの事が大好きだった。きっと彼女の事を好きにならない人間はこの世界に存在しない、そう思わせるような魅力が彼女にはある。漫画や映画の主人公というのは、きっと彼女みたいな存在なんだろう。
それに比べると、私は主人公の周りに居るモブキャラでしかない。彼女を見ていると、嫌でもその事を実感させられる。私がどんなに頑張っても、きっと彼女の様な物語の主人公にはなれない。光が強くなるほど影が濃くなる様に、彼女の近くに居れば居る程、自分を惨めに思う気持ちが強くなっていった。
それでも、私はほたるちゃんの事が大好きだった。なのに、それと同じくらい、ほたるちゃんの事が大嫌いだった。
ある日、家に帰るとお母さんが昔のテレビドラマを見ていた。主人公は学校一の人気者だったが、父親が犯罪を犯してしまったことで周囲の態度は一変、世間から心無い言葉や酷い仕打ちを受けながらも懸命に生きていくという内容の作品だ。
私の心の中にある、黒くて気持ちの悪い感情が静かに、”これだ”と囁いた。
それから数ヶ月後、私はお母さんに一つの嘘をついた。
「クラスの子がね、ほたるちゃん家のお父さんと中学生のお姉ちゃんが手をつないで歩いてるのを見たんだって」
噂好きの母によって、その嘘は想像通りに尾ひれと背びれを付けて小さな町を駆け巡った。
クラスの子たちがほたるちゃんをいじめるのは時間の問題だ。みんな私と同じ、劣等感と嫉妬心を好意で押し殺している事は知っている。
だから、私はみんなの背中を押してあげるため、ノートの切れ端に”ホテルちゃん”と書いて、休み時間に適当な机の上に置いた。
たったそれだけで、隠れていた劣等感や嫉妬心は解き放たれた。
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